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そうして日々の忙しさに追われてるうちに、いつの間にか、相手の誕生日とかバレンタインだなんてイベントも、すっかり、すたれちゃってた。
娘の行事やお祝いごとなら、良家の両親呼び集め、盛大に盛りあがったりするのだけれど。
そんなのをちょっと反省して、終電で帰って来た夫に、チョコトリュフ差し出してみる。
「何これ?」
「チョコレート。きのう優菜と一緒につくったの」
伝えたら、相手の顔がパッと輝いた。
「…優菜が?オレのために?マジで?」
「違うよ。誰かに渡すんだって。本人は隠してたけど、たぶん男の子じゃない?」
言った瞬間、むこうは愕然とする。
「…え…なんで?だれ?ウソだろ、やめろよ」
わかりやすいな。
予想はしてたけど、大人なんだからもう少し動揺を隠してほしかった。
「あぁどうしよう、そのうち結婚するとか言い出したら、オレもう耐えられない」
うなだれる夫を背中を、そっと撫で、ニッコリほほ笑みかけてあげる。
「いいじゃない。あの子も、優しい人みつけて幸せになれるなら。
…私みたいに、ね?」
一瞬、時間が止まったみたいに、え?って顔して、それから
「………うまいな。これ」
目の前のチョコをつまんで口に運び、しみじみと呟くオジサン。
「でしょ?貴重だよ?それ。
作りながら、いろいろ思い出してたんだけどね。
そう言えば私、アナタ以外にチョコ渡したことないんだよな…って」
「うん。知ってる。オレもオマエ以外にもらったことないし」
「嘘をつくなよ」
むかし会社の後輩に配られてたでしょ?
「ついてないだろ?
好きな相手からの本命チョコなんて、オマエの他にもらったことないもんオレ」
「ま、そうなるか。幼なじみが初恋相手で、そのまま彼氏で今、旦那…じゃねぇ」
「あぁ、そんなことより優菜、誰にやるんだろ?明日ちゃんと名前きいといて、お願い」
【完】
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