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「ねえ、先輩」
後輩の男の子、神木五木〈かみき いつき〉は目の前で長机に顎を乗せながら私を呼んだ。
「何? 後輩」
私は不機嫌そうに応えた。
「なんで不機嫌なんです? 生理ですか?」
「おい、セクハラだぞ」
ドスを利かせ、神木を威嚇する。
言われた神木は机から上半身をゆっくりと上げ、そのまま腕を真上に伸ばすと手のひらを重ねて胸部を前にさらし「んにー」と腑抜けた声を出す。
そして、身体中の古い空気を追い出すように息を吐いた。
「ごめんなさいな」
一連の行動が終わって返ってきた謝罪に一切の反省が感じられなかった。
「神木、お前本当に反省しているんだろうな?」
「ええ、してますともさ。だからこうして書類仕事を再開しようとしているんじゃないですか」
飄々としながらも、しかし眉を顰めて露骨に嫌そうに両脇の書類の山を交互に指した。
そう、これは仕事。生徒会の事務作業の一端だ。
私と神木は生徒会の一員だ。私が書記で彼が会計。
時期も時期だけに学校行事や部費の総決算、借用書類の整理、今年度の報告集の作成が山積みで、私達は今それらの処分を行っている最中だ。
私と神木は放課後始まってすぐに生徒会室に来て始めたから、大体二時間くらいはこうして書類処理をしている。
神木の手が止まり、突っ伏したり文句を垂れ流すようになったのは今から十五分前のことだ。
「私が言ってるのはそういうことじゃなくて、セクハラ発言をしたことについて反省しているのかって訊いているの」
神木が焦点をずらそうとしているところに、修正のメスを入れる。
彼はまたも焦る様子もなく、そしてわざとらしく鼻で笑った。
「それも含めて反省してるんですよ。今さぼっている分とセクハラの分が別料金ならそれはもう過払いですよ過払い。法律相談所にでも相談しちゃいますよ?」
「それ多分私勝てるわ」
「分かりませんよ? 男女平等を主義とする弁護士ならたとえ相手が女性でも手加減はしないでしょうに」
「それを含めて私が勝つでしょ。ていうか、男女平等を前提としない弁護士がいることを示唆するな。弁護士がそんな不平等な存在なわけないでしょ」
証言や証拠次第だと思うけど、弁護士界隈の情報なんて何も知らない女子高校生なのでここは自粛しておく。
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