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もやもやした気持ちを抱えて秘密基地に向かった。徳野君はミヤマカラスアゲハが、ここら辺では珍しいって知らない。情報を簡単に手に出来るから、覚えていようともしないんだ。
先に着いたのは僕だった。隠していたお菓子をかじって昆虫図鑑を眺めていたら、いつの間にか側に来た徳野君が不機嫌な声を上げる。
「早く行こうよ」
「あ、ごめん。おやつ先に貰ったよ」
そこから虫取り網を手にして、遅れて来た癖に謝りもしないで駆け出した徳野君を追った。
ミヤマを捕まえた場所まで来て、しばらく歩き回っていた僕は息を飲んだ。
一昨日とは別の珍しい蝶が飛んでいる。ブラックオパールの翅を忘れるくらい綺麗な蝶だ。
大型のアゲハにも似たその蝶には後翅の突起が無くって、まだら模様が青色に煌めく。
スマホを操った徳野君が得意げに説明する。
「ミカドアゲハだってさ。あの青色に光る部分には鱗粉が無いんだって」
ブラックオパールの遊色効果と同じじゃないか。光の屈折で起こる見せ掛けの色なんだと思いながら、僕は絶対に捕まえてやるんだと密かに決めた。
あれは僕のもの。虫取り網も標本キットも僕のもので、徳野君は調べるだけだし指図しかしない。そんな奴に渡すものか。
息を止めて、道端の花にとまるのを待って、そっと近寄って網を振る。
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