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上手い事逃げられた。
蝶って奴は、ふわり、ひらり、と実に上手く網をかわす。
決して動きは早く見えないのにだ。
凄く立派な翅でキラキラと輝いて、一昨日のミヤマよりも遥かに綺麗だったから、陽が暮れるまでと追い掛けた。
けれど途中で見失って、探しても見つけられなかった。
「残念、まただね」
「ちゃんと捕まえろよ、またな」
もう陽はほとんど沈み掛けて、夕映えの赤い光が空を焦がしている。
折角持って来た標本キットも今日は出番なしで、何も捕れずに帰る僕には邪魔なものに思えるけれど、明日こそは捕まえてやると決めていた。
徳野君とは一応約束したけれど、明日は僕一人でやる。
いつも後ろから煩く指図して気を散らすんだから、徳野君なんて本当は邪魔でしょうがないんだ。今日はわざと捕まえない様に振る舞ったけど、ゲームしながらじゃ気が付いちゃいないだろう。虫取りが下手くそで、僕が捕まえた蝶も鱗粉を剥がしちゃう無頓着な持ち方してさ。
そうなったら標本としては価値が無いのに。
明日一人で来て、さっさと捕まえて帰るんだ。
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