約束事

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その日は帰ってから、お父さんのパソコンでミカドアゲハを探してみた。 南国の蝶で、温暖化と共に住む場所が北に広がっているらしい。 日本の一部、高知県では特別天然記念物で捕っちゃ駄目だって。 でも僕の住んでいる場所は高知県じゃない。あれはいわゆる迷子の蝶だ。 絶対に徳野君には渡さない。 あんな『またね』って約束は適当だもの。何時って決めて無いんだから破ったって平気さ。 一人で行くと決めて眠った翌日、学校に徳野君は来なかった。 よし、と思わず小さなガッツポーズを取る。 これで先に『またね』の約束を破ったのは徳野君だ。僕一人であの蝶を捕まえたって文句は言わせない。言えるもんか。 その日はいつもなら徳野君にスマホを見せられて注意されていた僕も、一度も先生の注意を受けずに授業を終わらせて下校時間となった。先生、随分こっちを見ていたけどね。 嬉しくてしょうがない中、ランドセルに教科書を詰め込んで廊下を早足に過ぎる。走っちゃうと、折角一日、先生に怒られなかったのに怒られちゃうからね。 校庭に出た所で先生に呼び止められたけど、ここはもう走って良いし、今日はミカドアゲハを捕まえるって決めている。 だから呼び止める先生の声も無視して僕は大声で叫んで走った。
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