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「先生、また明日ねっ」
昨日より早くと走って家に帰り着く。
ランドセルを放り出し、用意をして置いた標本キットをつかみ玄関を走り出る。
後ろでお母さんが『待ちなさい』と叫んでいたけれど構うもんか。
ミカドアゲハを捕まえるんだから。
秘密基地まで走り、置いてある虫取り網を持って昨日の場所に行く。
額に吹き出る汗を拭きながら辺りを窺った。
オスの蝶は、蝶道と言って縄張りを作り、同じ場所をぐるぐると飛び回る事が有る。
間違いなく居る筈だ。
道端の草花には既にナミアゲハやキアゲハ、カラスアゲハ等の夏型で大きな蝶が群がる。
……居た。
ゆっくりと上下に翅を羽ばたかせながら、ひらり、ふわり、とこちらに飛んで来る。
初夏の陽射しを浴びる翅のまだら模様が青く煌めく。
青空の青とも海の青さとも違う。ましてや宝石の青さともまるで違う青さ。
命の青だと思った。あれを僕のものにする。
花の上に舞い降り、ストロー状の口吻を伸ばすのを見て近寄った僕は、蝶の頭の方向から被せる様に網を振った。
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