約束事

7/9
前へ
/9ページ
次へ
「先生、また明日ねっ」 昨日より早くと走って家に帰り着く。 ランドセルを放り出し、用意をして置いた標本キットをつかみ玄関を走り出る。 後ろでお母さんが『待ちなさい』と叫んでいたけれど構うもんか。 ミカドアゲハを捕まえるんだから。 秘密基地まで走り、置いてある虫取り網を持って昨日の場所に行く。 額に吹き出る汗を拭きながら辺りを窺った。 オスの蝶は、蝶道と言って縄張りを作り、同じ場所をぐるぐると飛び回る事が有る。 間違いなく居る筈だ。 道端の草花には既にナミアゲハやキアゲハ、カラスアゲハ等の夏型で大きな蝶が群がる。 ……居た。 ゆっくりと上下に翅を羽ばたかせながら、ひらり、ふわり、とこちらに飛んで来る。 初夏の陽射しを浴びる翅のまだら模様が青く煌めく。 青空の青とも海の青さとも違う。ましてや宝石の青さともまるで違う青さ。 命の青だと思った。あれを僕のものにする。 花の上に舞い降り、ストロー状の口吻を伸ばすのを見て近寄った僕は、蝶の頭の方向から被せる様に網を振った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加