最悪と最愛

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高速をひた走ること数時間。その間、2度ほどサービスエリアで休憩を挟んだ。彰兄はモテる。目を離した隙に、何度か話し掛けられているのを目撃した。少しモヤッとしたけど、その気持ちがどこからくるものかまでは、分からなかった。 2度目のサービスエリアで昼食を取ったあと、欠伸を噛み殺した俺に「まだ掛かるから寝てていいよ」と彰兄が言ってくれた。 寝るつもりはなかったけど、車の心地よい振動に揺られ、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。 「広大、着いたよ」 そんな声と共に揺り動かされる。何だか肌寒いな、なんて思いながら目を覚ました俺の目に、どこまでも続く木々の群れと、覆い被さるように降り積もった雪が映った。一瞬、まだ夢の中かと思うくらい衝撃的だった。 「・・・ここ、は?」 戸惑いながら呟く俺に「友達の別荘。冬の間は使わないからって貸して貰った」と彰兄が笑う。 そりゃ、使わないだろう。こんな山奥にある別荘なんて。 助手席の窓からクリーム色の建物を見上げた。しんとした静寂の中、聞こえるのは枝から落ちる雪の音と時折強く吹く風の音だけだ。 「降りるよ」 彰兄は車を降りると、後ろに回りボストンバッグを取り出した。多分、着替えが入っているのだろう。・・・俺、着替え持って来てない。シャツや上着はいいとしても、下着はやっぱり替えたいよな。 そこまで考えて、ハッとあることに気付いた。
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