最悪と最愛

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鍵を開け中へと入る。室内は暖房が効いていて冷え切った体を温めてくれる。 「先に風呂に入っておいで」 靴と靴下を玄関で脱ぎ去り、フローリングの床に足を乗せた。ひんやりと冷たい床に、麻痺しかけている足にトドメを刺す。 右手側に階段を見て、そこを左に曲がる。彰兄は二つあるドアの一つを開けた。中は脱衣所になっていて、洗面台と洗濯機が備え付けられていた。 磨りガラスで仕切られた扉を開き、浴場へ行くとカランを捻り温かいお湯を出す。 「今日の午前中、管理人さんに色々準備をお願いしてたんだ」 彰兄は湯槽にお湯を溜める。 「ゆっくり温まるといい。シャンプーなんかは中にあると思うからそれを使って?」 棚を探りバスタオルを取り出す。 「着替えは用意しておくから、脱いだ服は洗濯機に入れて。後で洗濯しちゃうから」 「・・・彰兄?」 いつもと違う彰兄に戸惑う俺を、ニコリと笑顔で牽制する。 「話は後だよ。先、体を温めないと風邪を引いちゃうからね」 優しく頭を撫で、彰兄は浴室を出て行った。俺は色んなことに付いて行けずに、呆然と立ち尽くしていた。その内、体が寒さを訴え始める。湯気で曇った浴場を見つめ、覚悟を決めると服を脱ぎ捨てた。
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