最悪と最愛

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「本命はどうしたんだよ。別れた男にいつまでも関わってないで、そっちを構ってやれよ」 「うーん・・・それなんだけどな。別れた」 「はっ?」 別れた? 思わず足を止め、武蔵をマジマジと見た。 『甘いチョコばかり食べてるとな、胸焼けを起こすんだ。たまには煎餅も食ってみたくなるだろ?』 そう言って俺を貶めた男は、その口で別れたと抜かすのだ。 だから何だ。俺には関係ない。俺はこいつとは別れたんだ。そして、初恋の相手でもある彰兄と付き合うことにした。 とっとと、この自意識過剰男から視線を外して、この場を立ち去るんだ。・・・そう思うのに、まるで縫い付けられたかのように、その場を一歩も動けなかった。 武蔵はそんな俺を見透かした顔で笑うと、腕を掴み引き寄せた。 ふわりとフレグランスの香りが鼻腔を擽る。大きな体で包み込むように抱き締められた。 こんな人目のある場所で何やってるんだとか、会社の人に見られたらどうするんだとか。まだ残る理性が警告している。 押し退けて離れるんだ。こいつに見切りを付けたんだろ?反発する心が、懐かしい香りと温もりに溶かされて行った。
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