最悪と最愛

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「俺にはお前しかいない」 腰に響く低音で囁かれ、力なく押し退けようとしていた手が止まる。 ・・・ズルイ。そんな風に囁かれたら、抵抗なんて 出来ないじゃないか。 「・・・なんで・・・別れたんだ?」 武蔵の放つフェロモンに朦朧としてくる。 「うーーん・・・それを聞くのか」 言い渋る武蔵の声にほんの少し意識が覚醒した。胸元から顔を上げ、仰ぎ見る。困ったように笑う武蔵に怪訝な顔を向けた。 「・・・なんで別れたんだ?」 再度問い正すと、武蔵は諦めたように溜め息を吐き「結婚することになってな」と言葉を紡いだ。 ・・・・・・結婚?結婚、て? 「・・・だ、誰が結婚?」 「俺が、だな」 俺は目一杯、目を見開くと「はぁっ?」と大声を上げた。 結婚だと?こいつ・・・結婚すんのか。 「色々あって逃げられなくなった。あいつに言ったら、ふざけんなって怒ってな・・・振られたんだ」 残念そうな声音から、まだ未練があることを匂わせる。 ーーああ、そうだろうな。怒った本命の気持ちが痛い程分かるよ。 「広大、お前はそんなことしないよな?俺が結婚したあとも、こうやって会ってくれるよな」 自分勝手な言い草をする武蔵から視線を外し、ボソリと呟いた。 「・・・・・・そうだな」
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