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お前は嘘つきだ、と罵られたことがある。
そのときの旦那とは向こうに浮気された結果、何故かそんな風に私の愛情不足を訴えられキレられて、為すがままに離婚と相成った訳なのだけど、さして喪失感など覚えもしなかったところを見ると相手の罵倒も案外真実を突いていたのかもしれなくもないと今になってから思うこともあるのだ。
元々の出会いは見合いだったし、恋に落ちていない旦那に上っ面の言葉を並べ立てて気持ちを誤魔化していた態度はある種の不義理を犯していたのだろう。
しかしながら、現代日本の夫婦生活なんてものはそんな程度の偽りはザラにあることだし、
セックスレスだったわけでなし、
この程度のことでナイーブに傷つかれるだなんて予想もしていなかったから、
私がひどい女であったという決めつけをされたこちらの身になって考えてみると、むしろ好き勝手不倫を楽しんでいたあちらの方が社会的には不味かったのだと言い訳めいたものを念仏のように唱えているしか心の平安を保つにはしょうがなかった。
後悔というものは遅れてやって来るのが常だ。
関係さえ持てば気持ちなんて遅れてやって来ると聞いたことがあるけれど、それが偽りであったことを私は己の経験をもって知っている。
だからこそ、こんな三十路半ばを過ぎた自分が恋に落ちることなどあり得るわけがないと思っていたのだが、はてさてどうして人生とは数奇なものである。
誰が言ったのかは知らないが、あり得ないということはあり得ないのだ。
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