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「こんにちは」
目鼻立ちの整った若い子だな、と薄っすら思った。
私の露店に来たその青年は、見るからにモテそうな二十代の年頃で、黒い帽子と紺色のジャケットが印象的だった。
……なんだか木工作家さんにいそうな感じ?
日曜マルシェに出店していた私は、予想外のお客さんに目を見張る。
「これって本当のお菓子じゃないですよね?」
私の作った作品を眺めて、彼は興味津々のセリフを洩らした。
そこに並んでいるのは、艶やかに輝くチョコレートを模したブローチだ。愛想笑いを浮かべた私が口を開く。
「これはフェイクスイーツですね。偽物のお菓子なので食べられませんよ」
「でも、すごく美味しそうだ」
舐めるような目つきで食い入るように眺めている彼に、私は思わずくすくすと笑い始める。放心したようにこちらに視線をやった彼に、ワークショップを勧めたのは自然な成り行きだった。
「わあ、これは凄い!!」
興奮するように、目の前に広げられた偽物の果物やシリコンのホイップクリームに青年は嬉々としてはしゃいだ。
「ソースを入れたら、このパフェ皿に好きなように盛ってみてください。お子さんとかもこういうのは好きな子が多いんですよ」
「これで五百円でいいんですか?」
「はい、大丈夫です」
儲けは少ないけれど、楽しんでいただければこちらも嬉しい。
そんな微笑みを浮かべると、ひとしきりワークショップを愉しんでいた青年が様子を伺うようにこちらを見ていることに気が付いた。
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