嘘つきな私と彼

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 指先がすっと伸ばされて、身を竦ませると……相手が朗らかに笑う。 「髪に葉っぱがついていました」 「ええ!?」  変な勘繰りをしそうになった自分が恥ずかしい。 真っ赤になった私に、爽やかな青年は名刺を一枚差し出してきた。 「絵本作家、通永アサヤ……」  聞いたことのある名前だ。 確か、彼の作品は今年絵本大賞を受賞していたはず。 「ゆっ、有名人じゃないですか!」  驚愕したこちらに、彼は照れくさそうな反応を示した。 「それほどでもないですよ。お姉さんの方がよっぽど凄いですって。こんな繊細で面白い作品がこの世にあったんですね」  引いてしまうほどのべた褒めだ。真夏で乾いた喉にレモネードを飲み干したような、甘酸っぱい感覚に陥る。 「わ、私の作ったものなんて、勉強すれば誰にも作れるので……通永さんのような才能があるわけでもないですし」  そんなことを言うと、まつ毛を伏せた彼は財布を手に微笑う。 「もっとあなたの作品を見てみたいな。ここにあるだけで全部ですか?」 「店の方にいけば色々売ってますけれど……」 「へえ、お店があるんだ。場所を教えてもらってもいい?」  怖々と自分で作った名刺を手渡すと、青年――アサヤは嬉しそうに受け取る。こんな無名作家の名刺なんて粗雑に扱ってくれても構わないのに、彼はまるで会社の取締役から貰ったように喜ぶのだ。 これが、不思議な好青年、アサヤとの出会いだった。
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