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ドアベルがチリンと鳴ってカウンターから視線を上げると、そこにはジーパンにTシャツを着た絵本作家が戸口に立っていた。
思ったよりも早い来店に言葉を失っていると、彼は黒い眼差しをこちらに向けて柔和に笑いかける。
「ヨルさん」
目をキラキラと銀河の大星団のように輝かせた青年に、私の心臓がドキリと鳴る。ぼうっとしそうになったけれど我を取り戻し、にこやかに接客をした。
「いらっしゃいませ。本当に来て下さったんですね」
「予想以上に凄いや。まるでケーキ屋の圧巻なショーウインドーみたいだ」
これって、露店で売っていたチョコレートでしょ?と訊ねられて、私は笑顔で首肯する。
「恋人さんに如何ですか?」
そう勧めてみると、相手は困り顔になる。
「残念だけど、彼女はいないんだ」
「……え?」
「流石に俺の髪に留めるのはおかしいかもしれないけど、ブローチだったらいいかな?」
「ご自分でお使いになられるのですか?」
「これはこれで可愛いでしょう?」
はしゃぎながらそう首を竦められて、二人は思わず笑い出してしまった。
アーティスト独特の雰囲気を持っている彼のバッグに当てられたチョコレートを模したブローチはどことなく愛嬌を醸し出している。
うん、これはこれでいいかもしれない。
そんな満足を覚えていると、彼は緊張した様子で言う。
「……また来てもいいですか?」
「勿論です」
「良かった。俺のことはアサヤと呼んでください」
ホッとした表情の彼は、赤いハイビスカスティーを注文して飲んでいった。
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