嘘つきな私と彼

8/13
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 おかしいな、八つも年下の男の子になんでこんな感情を抱くのだろう。涙を零しそうになった私が俯いてそれを隠すと、アサヤが言った。 「俺だったら、嘘でもいい。あなたが手に入るのなら、それでも構わない」  知り合って間もないのに、そんなことを言われて。私の目が大きくなった。 「……何を冗談を言って……」 「……今日はもう帰ります。返事はまた今度聞かせてください」 「待って!」  帰ろうとしたアサヤの服の裾を反射的に掴む。驚いた顔で振り向いた彼に、じんわり汗ばんだ私は言葉を迷子にさせながら泣きそうになる。 「いか……ないで」  勢いのまま、やっとの思いで絞り出すと、無表情になった彼が何かを堪えるような表情になった。一瞬が永遠に感じるほどの沈黙が流れて、どちらともなく唇を合わせる。 タバコの臭いと彼の匂いが混ざりあって渦を巻く。岸辺を探して溺れていく。呼吸もできないくらいに、互いを求め合う。 夕方の店内。誰も来ないように、看板をひっくり返した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!