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おかしいな、八つも年下の男の子になんでこんな感情を抱くのだろう。涙を零しそうになった私が俯いてそれを隠すと、アサヤが言った。
「俺だったら、嘘でもいい。あなたが手に入るのなら、それでも構わない」
知り合って間もないのに、そんなことを言われて。私の目が大きくなった。
「……何を冗談を言って……」
「……今日はもう帰ります。返事はまた今度聞かせてください」
「待って!」
帰ろうとしたアサヤの服の裾を反射的に掴む。驚いた顔で振り向いた彼に、じんわり汗ばんだ私は言葉を迷子にさせながら泣きそうになる。
「いか……ないで」
勢いのまま、やっとの思いで絞り出すと、無表情になった彼が何かを堪えるような表情になった。一瞬が永遠に感じるほどの沈黙が流れて、どちらともなく唇を合わせる。
タバコの臭いと彼の匂いが混ざりあって渦を巻く。岸辺を探して溺れていく。呼吸もできないくらいに、互いを求め合う。
夕方の店内。誰も来ないように、看板をひっくり返した。
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