ある物書きの憂鬱

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 ――悪の組織チョコレー党の暗躍により、カカ王国は、国民の実に八割が虫歯の危機に瀕していた。  ぎっくり腰で伏せる父、カカ王にかわり、二人の息子カカ・オマスとカカ・オニブは、チョコレー党を止めるべく、奮闘する。  そんな中、謎のジャポネーゼ・シュガーダ・サトウは華麗に登場し、それぞれに甘い顔をした。  サトウの真の目的は?  二人は悪の組織チョコレー党のココ・アバターから王国を、そして国民の美しい歯と歯茎を守りきれるのか?  物語の終焉までに、カカ王のぎっくり腰は治るのか?  うなれ! ニブ・ロースト!  キメろ! テン・パリング!  最後のひとつぶがお口の中でなめらかにほどけるとき、奇跡が起こる! 「はじけろ、チョコレー党……ってなんですか、これ」  目の前の女は何とも苦い顔をしていた。  彼女は私の、いわゆる担当さんで、名を深山という。肩の下まである黒髪をきちんと後ろで束ね、切れ長の目を華奢な眼鏡の奥から覗かせている。はたから見れば十分に美人の部類に入るだろう。  しかし、私は彼女の、それだけではない面を嫌と言うほど知っている。今も、まさにそうだ。先の台詞以降、口は真一文字に引き結ばれ、微動だにしない。視線だけがこちらへ向けられ、まっすぐに威圧してきている。つまり、怖いのだ。  そのまま、しばしの間が空く。ちゃんと呼吸はしてくれているだろうか。勘繰りかけたところで、深山が再び口を開く。良かった、生きていた。 「あまり時間がない事はご存知ですよね? なんなんですか、これは」
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