ある物書きの憂鬱

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 深山は、口こそ開いたものの、相変わらず、カカオ成分がビターの極限に達したチョコレートを、口いっぱいに、それと知らずに詰め込んだような顔をしている。  そのまま食べると大変だけれど、ミルクに溶かすと意外と美味しいよ。そう教えてやりたかったが、とても牛の乳の話を切り出せる雰囲気ではない。 「だから、バレンタインの」 「これを、バレンタインに?」  私の話をみなまで聞かず、深山はすぐさま言い返してきた。物凄く、食い気味にだ。  いいね、そのせっかちな感じ。私の思い描くココ・アバターそのものだ。  部下の話を聞いているようで全く聞いておらず、独断でスタンドプレーをやってのけ、事態をかき回す。そのくせ、最後はサトウと恋に落ち、彼女を守る為、オニブのニブ・ローストの前に倒れる。愛と悲哀に満ちた、悪の組織の覆面戦士である。  そうだ。よりイメージを固める為に、ちょっと、奥の自室に用意してある焦げ茶色の覆面を被って、ポージングをキメてみてくれないか。  昨晩、私も被って考えてみたが、どうも君に被ってもらった方が良さそうだ。 「私これでも、先生の事、好きなんですよ」  腰を浮かせて立ち上がりかけたところで、突然の告白が飛んできた。
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