0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕らを隔てる「76」という数字。この数字は僕にとって、どうしようもなく重たく、苦しい。
道端で、久しぶりに彼女と出会う。
「やあ、久しぶり」
なるべく何でもないように振る舞いながら僕が声を掛けると、彼女はそれで気付いたように返事をする。
「あら、久しぶり。前にあったのはいつだったかしら?」
「もう随分なるような気がするね。相変わらずだったかい?」
「えぇ。お陰様で」
実際彼女は、以前会った時と何も変わらない。雰囲気も、見た目も、態度も。まるで昨日別れたばかりのように、会話は滞りなく進んでいく。
彼女を最初に見た時の、あの強烈な印象は忘れようもない。
誰とも関わらず、静かに宙に浮かんでいるような僕の生活。暗く静かで何の変化もない。ぼんやりと、何となく過ぎていく時間。このままずっと、退屈でしょうもない時間が無意味に流れていくのだと、どこかで確信していた。
そんな僕の退屈を、一瞬にしてどこか遠くへ吹き飛ばした一筋の閃光。それが彼女だった。
彼女の存在に気付けば目がそちらを向き、そして何とはなしに目があって、それから何とはなしに話すようになった。
彼女は最初からこんな感じだった。淡泊というか、あっさりとしている。だからといって、突き放したりはしない。適当な距離感が当たり前に心地よく、僕は彼女との会話が楽しかった。
そんな楽しい時間はあっさりと過ぎ、そしていつも通り彼女は僕の元を去っていく。決まり事なのだから、しょうがない。
「じゃあ、もう行くね。……そんな寂しそうな顔、しないでよ。もう慣れたでしょ?」
彼女は淡泊だ。
「寂しいんだから、寂しそうな顔をするのは当たり前だよ。こんな時でなきゃ、寂しそうな顔なんてできないじゃないか」
僕は素直な気持ちで話す。彼女は僕の言葉に、少しだけ笑う。
「それもそうね。でも、また会えるわ」
「次は、いつ?」
「さあ。いつか、なんて断定出来ないわよ。でも、その内よ」
「じゃあいつも通り。“さようなら”じゃなくて」
「そうね。“またね”」
そう言って別れるのが、僕らの決まり。
僕は決まって彼女の背中を、そしてお尻から延びてふりふりと揺れる尾を見送った。
次はいつ会えるのか。きっと、今日の楽しかった時間を何度も心の中で反芻しながら耐えていく。前回もそうだったんだ、今回だってきっとこの孤独に耐えられる。
最初のコメントを投稿しよう!