【遺書 風見明日香】

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でも、残念ながら私はその答えを言うつもりはありません。 だって、あれは誰かが香苗を突き飛ばしたのではなく、全員の悪意が保身が彼女を突き飛ばしたのですから。 貴方たちに分かりますか。顔が認識できなくなっていた香苗にとって誰が誰だか分からない人間に集団で追い込まれるという恐怖が。 香苗は皆さんの悪意に背を押されてホームに落ちたのです。 どうして、香苗は死ななくてはいけなかったのでしょうか。彼女は悪い事は何一つしておらず、酷い目にあわされたクラスメイトを誰も責めたりしない良い人だったのに。この世には神も仏もないと私は思いました。 神様は賽を投げないという言葉があります。すべては運命で決まっていることなのだと、偶然なんてないのだと言います。 なら、私は香苗を殺してしまうような神様とは違う手法を取りたいと思います。私は賽を投げるのです。 クラスメイトの皆さん。今日この場でお酒やお茶等の飲み物が振舞われていると思います。私の父と話をしたときに飲み物進められましたよね? それを飲んで少し酔いが回るのが早いなと感じていませんか? その認識は間違っていません。だって、父が貴方たちに飲ませた飲み物にはメタノールが混入されています。これはワインとかに入っているアルコールの一種ですが実はかなりの劇薬なのです。 無色透明で無味無臭なので分からなかったでしょう? ちなみに致死量は大匙1杯程度です。症状としてはめまい吐き気に激しい頭痛が起ります。 ああ、心配しないでください。即効性はありませんので、飲んでから死亡するまでには数日かかります。その前に病院できちんと処置すれば助かりますよ。 でも、ここは離島で天気予報ではちょうど台風が来ている時期です。数日は船は出ませんし飛行機も飛べないでしょう。ちなみに大きな病院がない事も皆さん知っていると思います。唯一いる医者は……私の父ですから。分かりますよね。 皆さんが死ぬか。船が来るのが先か。 私は賽を投げました。後は貴方たちの運次第ですよ。 でも、私は皆さんに助かって欲しくないと思っています。先に向こうで待っていますね。 だからさよならとは言わずにこう言いますね。 またね。
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