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ミズキは、エミナがこの間、教えてくれたことを思い出した。この木は落鳳樹。落鳳樹の葉は日が経つごとに赤く色づき、やがて真っ赤になっていく。そして、その葉は真っ赤なまま散るのだ。
葉を付けているうちは、まるで木が燃えているように見える落鳳樹だが、徐々に葉が落ちて、やがて落ちきった後には落鳳樹の根元が、一面燃えている光景に変わる。そして、やがて落鳳樹は次の葉を付け、それほど特徴の無い木に変わる。こうやって三度楽しめるのが落鳳樹だ。
「そういえば、エミナさんの世界にも紅葉ってあるんだね」
「紅葉?」
「そう。赤いベニに、木の葉のハって書いて紅葉」
この世界、少なくともこの地方には春夏秋冬は無いが、落鳳樹のように、紅葉と同じような楽しみ方があるのは、どこか不思議な気分だ。
「へえ、名前からすると、落鳳樹の同じ感じなのかな? なんか、不思議」
エミナも同じらしい。奇妙な一致は、人を不思議な気分にさせるのか。
「落鳳樹ほど派手じゃないけど、赤だったり黄色だったりに葉っぱの色が変わってね、それも綺麗なんだ」
落鳳樹は、現代技術でいうところの写真にあたる魔法雑貨を介して見たことがあるが、本当に燃えているような赤だった。蛍光色のペンキでも塗ってあるのかと思うほどだ。
「黄色もあるんだ、面白いね、それ。赤と、黄色と、緑と、茶色と、四色もあるってことかぁ」
「茶色?」
「そ、枯れ葉の色だよ」
「ああ、そうか」
そういえば、そうだ。瑞輝の頭の中では枯れ葉は除外されていたが、よくよく考えてみると枯れ葉の色も加えると四色になって、なんだかお得だ。
違う世界なので当然かもしれないが、不意に瑞輝の感覚を否定されて、ふと、物事の根本から考え直すことができる。エミナと会いたいというのが、この世界に頻繁に行き来する一番の目的には違いないが、他にもそういう感覚を味わえるのも、ここの面白い所だ。
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