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「……やっぱり、もう霊気は残っていないみたいですね。霊も居なさそうです。普通に成仏したんでしょう」
「後に残うたのは、この血生臭き匂いのみ……か……」
梓と丿卜は、辺りを眺めた。射線の無い狭い道路の中央には、まだ黒い血溜まりの跡が残っている。
「この争いの無き世に、かほどに不似合に見えるとはな」
丿卜は全身が鎧で包まれていて表情は見えないが、梓には丿卜の顔が曇っているのだと思えた。
「ちょうど、こんな時間にあったんですよね、首切り殺人」
奇しくも被害者の死亡時刻と、丁度同じ時間に、この事件現場に来ていた。
辺りはすっかり薄暗くなっていて、下に広がる大きな血だまりが一層異様に見える。
この道も大通りからは離れていて、人の音も車の音も、たまに小さくしか聞こえない。周りの塀越しに見える木々の騒めきの方が大きく聞こえるくらいだ。
それらが相まって、ここは不気味な雰囲気に包まれている。時間帯が違えば、雰囲気も違ってくるのだろうけど。
「これですか。ダイイングメッセージって」
梓の足元には、確かに「GO」の文字が書いてあった。
「本当にGOなのでしょうかね……」
写真で見た時は、上下も明確だし杏香の解説もあって、はっきりとGOと見えたが……実際にここに来て見てみると、上下も不明確で字形も乱れていて本当にGOなのかは怪しい。
「汚う字ではあるが……他に何に見えるかと問われてものう。GOが一番近くはあると思うが」
「そうですねぇ……他の何かに見えるわけでもないし……GOなんでしょうね」
梓は他に目ぼしいものがないか、血溜まりの周辺をぐるりと一通り見て回った。
「目ぼしい物は掃除されているか、警察のかたが持っていったんでしょうね。でも、何も証拠は出てこなかったと。うーん……」
辺りは異様な雰囲気ではあるものの、血溜まり以外には異常な所は見つからない。
これで、ちゃんと、プロによる鑑識が行われて、なおも証拠がなにも出てこないとなると……確かに、跡形も残らない、オカルト関係の事件だという可能性は高いだろう。
「テレビで流れておった映画でよく言っておるのだが、『GO』とは『いざ行かん』という意味であろう?」
「ええ、まあ。直訳すると、『GO』は「行く」って意味です」
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