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それは、みすぼらしい姿をした彼には到底見合わない、真新しいスニーカー。
しかも、よく見れば、それは有名な野球選手やサッカー選手も愛用しているアデェダスのランニングシューズの最新版。
ランナーを前へ前へと押し進めるバネのような新感覚のクッションを装備し、長期間使用しても劣化しないだけでなく、温度変化によっての硬度変化が起きない為、季節や場所を問わず履き心地の変わらない最高のシューズ。
品質がいいだけに値段もいい。
高校生の自分には到底買えることの出来ないプロ仕様のものだ。
『それを、こんな見るからに貧乏そうなオッサンが一体なんで?』
つい訝し気な目で男の顔を見てしまう。
だが、男は俺のそんな視線など気にする事なく、ただ二つのモノを交互に見比べていた。
「ん?」
男の視線を辿ると、それは俺の両脇にある紙袋。
「もしかして腹減ってんの?」
いまにも涎を垂らしそうな表情をしている彼に声をかけると、途端に目を輝かせた。
「オマエ、チョコ。オレニ、クレルカ?」
たどたどしい返事にどこの原住民だよと苦笑するも、「そんなに欲しけりゃやるよ」と、紙袋の中からひと箱取り出し男に手渡す。
すると、あまりにも飢えていたのか、少しでも早く食べ物にありつこうと、バリバリバリッと包装紙を勢いよく破り捨て、荒々しい手付きで箱の中のチョコレートにかぶりついた。
『あ~……ゴデュバの高級チョコも、コイツにかかれば一個22円のチロリチョコとかわんねぇ扱いだな』
ひと箱ウン千円のチョコレートの悲しい末路を見て、少々罪悪感に駆られながらも、まぁ、食わずに放置される運命よりかは幾分マシだろうと気を取り直す。
あっという間に完食してしまった男の視線は、再び紙袋へ。
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