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営業課長へ昇格したと同時に、重大なミスをした。
新しく会社で取り扱う事になったスニーカー。それを直属の部下である野里が、発注ミスをしたのだ。
涙目で謝罪する野里は子猫の様に可愛かったが、ミスの内容は全然可愛くない。
50足分発注したはずが、届いたのは500足分。
すぐに確認したが、注文書には500という数字が書かれ、承認の欄には私の印が押してあった。
「課長に昇格して、浮かれていたのか……」
過去に大きなミスをした社員は、想像を絶する罰を受けたらしい。解決策は無いのか?
良い考えは一向に浮かばず、近くの公園へと足を運び、ベンチに座って悩み続ける。
気がつくと、目の前に怪しい人物が立っていた。
髪はボサボサで服はボロボロ。履いているスニーカーだけは新品に見えるが、どう見ても浮浪者だ。
浮浪者はチョコレートの入った紙袋を一瞥し、ゆっくりと口を開く。
「わしは、スニーカーの神様じゃ」
……
……
よし、警察に連絡しよう。
迷う事無く携帯電話を取り出すと、浮浪者は続けて言葉を放った。
「お主は、スニーカーの事で悩んでおるな?」
携帯電話を操作する手がピタリと止まる。
「……何故、それを?」
「ほっほっほ……わしは神様じゃ。何でも知っておるぞ。さあ、お主の願いを叶えてやろう」
神様はスニーカーを脱ぎ、俺の前へと突き出した。
「三万じゃ。お主の靴を下取りしてな」
「この靴を買えと?」
「進むべき道に迷っておるのだろう? どんな未来に向かって走れば良いのか、悩んでおるのだろう? その全てを解決する、魔法のスニーカーじゃ」
この人を見ていると、何故か逆らう事が出来ない。
全てを見透かされた言葉に、大きな使命を心で感じる。
気がついたら、俺はスニーカーを受け取っていた。
そして神様は、艶めかしく服を脱ぎ出す。
「ほっほっほ……お主には特別サービスじゃ。わしの服と、お主の服も交換してやろう。それから、その紙袋を献上するがよいぞ」
言われるがままに紙袋を渡し、ボロボロの服を受け取った。
「これはサービスじゃ」
神様はカツラだった。神々しくも感じた汚いカツラを被せてくれる。
ヌメヌメするスニーカーも、今の俺なら問題は無い。
こうして俺は浮浪者にクラスチェンジし、神様はサラリーマンへとクラスチェンジを遂げた。
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