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月影の英雄
『孤高の竜騎士』を知らない人は、おそらく人間界にいないと思います。王子様のように繊細で美しい顔立ちと、卓越した剣の腕前、そして紳士的で心優しい性格から、絶大な人気を誇る騎士です。
どこか憂いを帯びた落ち着いた表情や、月光に映える銀の髪。己の剣は、困っている誰かを助けるためにしか使わない。彼こそまさしく英雄です。月影の英雄と呼ばれても、決して大袈裟には聞こえないでしょう。
けれども、ここでお話する『月影の英雄』は、彼のことではありません。
彼を一番よく知る、二つ年上の親友のことなのです。
彼は一見、竜騎士とは正反対の性格に見えます。月より太陽が似合うような、明るくて、豪快で、人懐こい青年なのです。竜騎士のような、秘密めいた雰囲気もありません。気さくで、面倒見も良いので、いつも人に囲まれています。
しかし、それだから、誰も気付いていませんでした。
この竜騎士の親友が、実は『もう一人の英雄』であるということを。
おそらく、本人の口から語られることはないでしょう。彼は、自分が英雄呼ばわりされるのを何よりも嫌がりますからね。ですから、彼をそばで見ていた人たちに、彼の物語を教えてもらう他ありません。
誰も知らない物語。月影にいた英雄の物語。
今からほんの少しだけ、覗いてみましょうか。
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