カノーン戦を終えて

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 カイルビーは果敢にグザファン等に攻め掛かる。グザファンはそれを受ける必要が有った。その為、そこでシャトルからダイト提督を救出しようとしている敵ガロを狙う事が出来ないでいた。 「このままだとまずいな」  グザファンは自分に叩き付けられた相手のカイルビーの斬撃を受けながらそう独り言ちた。このままこのカイルビーに構っていればそれはグザファン達の敗北を意味するも同然だ。ダイト提督を捕らえなければ、または殺さなければ、ダーナは再度狙われる可能性が出て来る。そこをグザファンは危険視していた。  その時だった。敵カイルビーが動きを変えた。急に、グザファンから距離を置いたのだ。何が起きたか、グザファンは直ぐ知る事となる。グザファンの後ろから一機のハイプレッシャーが突っ込んで来た。それはデッサーだった。 「デッサー?」 「こちらファララ・エバンズです。今の内にあのガロを止めて下さい。ここは私が受け持ちます」  ファララが援護に追い付いたのだ。それでカイルビーはデッサーの相手をする事としたようだった。 「有難い。恩に着るよ」 「いいえ、ここは何とかします。急いで下さい。ダイト提督を逃がせばこの戦いで生まれた犠牲の意味が無くなります」  グザファンは加速すると、そのままダイト提督を救い出そうとするガロへ向かった。ガロがそれに気付き、こちらに応戦しようとする。いや、違う。良く見ると、ガロはコックピットハッチを開けていた。その中にダイト提督と思われる神経質そうな男が乗り込もうとしていた。 「させるか!」  グザファンは、そのままダイト提督を救出しようとしたガロに襲い掛かった。敵ガロは急ぎコックピットハッチを閉じると、矢張り逃げようとして来た。だが今このタイミングでグザファンに背を向けるのは得策では無い。グザファンは背後を向けたその敵ガロに斬り掛かった。相手のガロがそれでツインハッチバインダーを両方共斬り落とされた。ガロはそれでメインのスラスターを失い、そのまま逃げる術を失った。貰った! グザファンは更に、そのガロの右足を斬り捨てた。ガロは無様に倒れた。 「降伏しろ、そちらの負けだ」  グザファンはそう宣告した。戦闘の終了をダイト提督が命じてくれれば良かったが、敵部隊はそれでもまだ戦いを続けている。グザファンはそういう意味でも、ダイト提督に覚悟を決めて貰いたかった。  そしてその願いは叶う事となる。敵部隊の動きが変わって行った。皆戦闘行為を中断し、そのまま一機ずつ大人しくなって行った。  グザファン達は勝ったのだった。  リア・メイ・ザウサーはまだ悲しみの中にいた。デジェ・フラッカー大尉を失った事を悔いているのだ。普段はポニーテールにしている紫の髪の毛を手入れもせずに放置し、そのまま涙をぽろぽろと流していた。  そんな彼女にガイ・シェイエンは温かい声を掛ける事をしてくれなかった。ガイはどうやらリアよりも早く立ち直ったようで、今は復讐の為の準備に取り掛かっていた。  リアはそれが叶わない理由がもう一つ有ったのだ。彼女のハイランダーは損傷が激しく、修復に時を要するという事だった。暫くはそれで動けない事が確実となった。 「どうして……? 大尉……」  リアは自分を守る為に死んでしまったデジェを想った。デジェは最期の瞬間何を思ったのだろうか? リアが生き残るべきだったのだろうか? 「リア、少し良いか?」  さめざめと自室で泣いていたリアを呼ぶ声が彼女の部屋のドアの前から聞こえた。この声はガイの物だった。リアは急ぎ涙を手で拭うと、部屋のドアの方へ向かった。開くとそこに、段ボール箱を持ったガイが立っていた。 「……何?」 「うん、大尉の遺品を整理する。手伝ってくれないか? お前も手元に置きたい物が有るかもしれないからな」  その言葉から益々、リアはデジェが本当に死んだのだという事を知った。そしてその遺品整理にガイが誘ってくれた事がまるで何の感情も無いかのように淡々と済まされている事が嫌だった。 「あたし……まだ……」 「良いか、リア。俺達でデジェ大尉の仇を討たないと行けない。その為にはこんな所で何時までもめそめそしていては駄目なんだ。俺はそう簡単にデジェ大尉を殺した敵を許す事が出来ない。この先戦いに出るとなると、俺は必ず敵を倒しに行く。デジェ大尉の命を奪ったベトレイヤーを許す事は出来ない。だがその為にはここでうじうじしていても何も始まらないだろう? 次の一歩を踏み出す必要が有るんだ」  ガイは前を向いているんだ。リアはそう知った。だがガイのように強い人間ばかりでは無い事も知って欲しかった。今もリアはデジェ大尉の遺体すら回収出来なかった事を歎いていた。せめてそれだけでも取り返したかった。だがリアはそれがもう敵わない位置にまで来ていると知った。既にカッサンドラはカソーレン市から遥かに遠ざかり、そして次にどういう動きを見せるか分からないのだった。とは言え、再度カッサンドラが敵に報復戦を仕掛けるとなると、リアはまともに動かすマシーンが無く、留守番を任される事となるだろうが。
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