GP計画

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 キースはそうまるで自分の実力がワスを完全に上回っているかのように述べる。そこまで自信がどうして有るのかワスには理解出来ない。第一ここで張り合っても仕方が無いのだ。ワスは一々そんな事でむきになったりはしない。だがしかし、不愉快な気持ちにはなる。 「僕は、貴方と戦うつもりは無い。僕と貴方は同じ物を目指しているはずだから」  それを聞き、キースははっきり分かるように蔑んで来た。 「聞いたか? ユーデリカ、お前が慕うワス・ライトオンダーは俺と同じ物を目指しているってさ。果たしてそれがどういう物か分かって行っているのかな? 俺はライトオンダーを超える事を目指している。俺はベトレイヤーの代表にだってなりたい。俺は成り上りたいんだ。お前が俺と同じ事を目指しているのだとすれば、俺がベトレイヤーのトップになるのを手助けしろ。それとも何か? お前も俺と同じように、ベトレイヤーのトップになる事を目指しているのか?」 「そんなのどうでも良い」ワスは本音を述べた。ワスにとって別に今の立場を無理矢理変えようとは思えなかった。それを或る意味欲が無いと言えるだろう。「僕は誰の上に立つとか誰の下に着くとかそんな物で僕の目的を左右されたくない。僕はただ、エンパイアーを下したいんだ。それだけです、僕がベトレイヤーとして戦う理由は。キース中尉はそれが違うと言うのですか?」 「ああ、違うとも。俺はベトレイヤーを率いるだけの力が欲しい。今でこそバイオラの命令を聞いているが、それも何時かは超えて行きたい。そしてライトオンダー、お前の伝説とやらをひっくり返してやるのさ。俺はその為にこうして戦っている、撃墜スコアだって増やして行かないと行けない。そこをお前に邪魔されるならば、俺はお前で有っても討つぞ?」  下らないライバル意識だ。ワスはそう斬り捨てたかった。だがキースに取ってそれは一大事なのだ。それを簡単に馬鹿に出来ない自分がいる。それがワスの甘さだった。 「キース中尉、僕は貴方とは張り合わない。貴方のやりたい事に付き合うつもりも無いです。でもこれだけは言える。戦争だからって殺し合いだからって殺戮に走ってはならない」 「はん。エンパイアーに情けを掛けるつもりか?」 「ええ、彼等の中にも話せば分かってくれる人がいるかもしれない。そういうベトレイヤーに若しかしたら所属してくれる可能性が有る存在を簡単に殺せませんし、それに例えそういうパイロットでは無かったとしても僕は無駄に敵を討つ事はしたく無い。殺さずに済むのならば殺さないで置きたいです」 「甘いな。エンパイアーはそんなお前の甘さに付け入るぞ? まあ今に見てな。どっちが正しいか良く分かるだろうからな」  キースはそう言い切った。ワスは自分が甘いだけでは無いと思いたかった。エンパイアーだからと言って無暗に命を奪う必要は無い。勿論戦闘時にはワスも鬼になる。彼に向かって来る敵を片っ端から倒して行くだろう。その際には命を奪う事も躊躇しない。だがしかしワスの中には未だ、命を簡単に散らすべき必要がお互いに有るのかどうかを判断出来なかった。そこはパロットの方が割り切って考えていた気がする。パロットは目的の為ならば相手を殺す事に何も迷いは無かった。それが彼の強さに繋がっている事もワスは分かっていた。だがワスはそこまでにはなり切れなかった。  キースのレザはワスにじろりと赤い眼を向けると、そのままそこから去って行った。ワスも戦いを終えたので、ヴィクトールに戻る必要が有ると言える。または、ヴィクトールに迎えに来て貰うかどうかだ。 「ワス、大丈夫?」 「テレサ、ごめん、変な所見せたね。僕は間違っていたのかな?」 「ううん、ワスはワスのやり方で良いと思うよ。私はそんなワスにだから付いて行きたいと思ったんだ。確かにワスは、少し甘い所が有るよ。それは認める。でもそういう所がワスを魅力的に見せているんだ。そこをワスは変えないで欲しい。そういうワスだからこそ、私は魅力を感じるよ」 「そっか、有難うテレサ。じゃあ僕等も撤収しよう。ヴィクトールは動いてくれるのかな?」 「まあこのバルバダシティを攻めるのもはっきり言ってバイオラ艦長の気紛れみたいな物だったしね、それくらいはして貰いたいよね」  バイオラ艦長は果たしてそれで満足してくれるだろうか? ラクサミーを討たれた事への腹癒せにワス達を今回このバルバダシティに派遣したような物だった。それで確かにバイオラが満足してくれなければ同じような戦いをまた行わなければならなくなる。  しかし、バイオラはワス達の事を何だと思っているのだろうか? バイオラが自分の好き勝手にする為にパイロット達を使っているようにしか見えない。それは、確かにバイオラがパイロット適性が無く、艦長と言う立場でしか戦闘に出る事が出来ない事が理由に有る。それでラクサミーの仇を討つ事は、バイオラ本人には出来ないに近い。そこで、戦って行くには彼女は部下を使って行くしか方法は無い。しかしそれははっきり言って私怨で動かれているような物だ。その為にヴィクトールを使い、いやもっと言ってしまえば、ベトレイヤーの貴重な戦力を使って戦いに出て行く事が許されるのだろうか? はっきり言ってマーカスに聞いて見たかった。
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