死闘

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「一体今のは何なんだ!?」  デイヴィットはカッサンドラのブリッジでそれを目撃した。空から一条の光が差し込んだかと思うと、そこを中心に爆発が起こった。それは彼等が駐留しているアンスペクト島からも確認出来た。バルバダシティは完全に消滅してしまった。どう考えてもベトレイヤーの兵器の影響では無い。こんな恐ろしい兵器が、エンパイアーに有ったのか? 「テスラ、今の武装について何か知らない?」 「いえ、私も情報を持っていません。ただ、明らかに桁違いの威力を持つ兵器だという事だけは分かります。このアンスペクト島からでもあれだけの威力を確認出来るなんて」  今もまだキノコ雲が立ち昇り、それがスパークしている様子がカッサンドラからも見えていた。破壊力は並の物では無い。それはデイヴィットも充分分かっていた。 「エンパイアーが使う兵器の中で最強クラスの威力を持つとは思うけど、それをこのカノーンに用いるなんて。カノーンは或る意味エンパイアーの味方もしてくれる惑星だと聞いていたけど、それでも容赦しないんだね」 「僅かでもベトレイヤーに与した事への罰でしょう。しかし、だとしてもこれはやり過ぎな気がしますが」  そうなのだ。今の攻撃は確かにカノーンの市民には恐怖として植え付けられただろう。だが同時にそれによりエンパイアーへの反感を買う可能性も出て来る。そこを考えての一撃だったのか? 「デイヴィット大尉、どう動かれますか? 今の攻撃を受けて正直に申しますと私達の役割は終わったような物ですが」  確かにそうだ。これでベトレイヤーに与し、エンパイアーに逆らう事のリスクの大きさをカノーンの市民達は理解しただろう。ベトレイヤーも下手に動く事が出来なくなる。何故ならば彼等が例えカノーンの都市を押さえたとしても、上空からあの攻撃を撃たれれば、それで受ける被害が大き過ぎる。何ならばその都市を丸々消滅させられる事も起こり得る。恐らくベトレイヤーも今大混乱状態だろう。まともな部隊ならば、ここで下手にカノーンを傷付ける真似はしないはずだ。これでベトレイヤーが手を引いてくれる可能性も高くなる。 「僕達も様子見で行こう。あの攻撃の巻き添えを食らいたくは有るまい」 「それは賢明な判断だと思います」 「うん、もう少し詳細を知りたいね」  デイヴィットはそう言うと、ブリッジから見えるキノコ雲をじっと見ていた。あの下では何人の人間が犠牲となったのだろうか? ただベトレイヤーを滅ぼす為の兵器では無いとデイヴィットは感じた。もっとこの星の民に大きな恐怖を与える武器だ。これでカノーンの民がベトレイヤーを積極的に拒絶してくれれば、デイヴィットも戦う必要が無くなるのだが。  或いはマオもそれに巻き込まれる可能性も有った。デイヴィットはそれは避けたかった。マオに関しては自らの手で決着を着けたかった。とは言え、今の所デイヴィットの全敗なのだが。  フラットはこの武器の事を知っているのだろうか? 若しもフラットがこれを使っているのだとすればその冷血ぶりにデイヴィットは背筋が凍る思いがした。それだけ一撃で町一つ吹き飛ばす兵器は使い方次第で変わって来るのだ。  デイヴィットは何とも落ち着く事が出来なかった。だがこれが戦争なのだ。相手に対し最も効果的な一撃を放つ事に何を疑問を感じる必要が有るのか? ましてやエンパイアーに逆らうような真似をするようなカノーンの連中が悪いとデイヴィットは思った。いや、そう思うように努力していた。だが頭の片隅では、ここまでの兵器を用いる必要は本当に有ったのかという疑問が渦巻いていた。 「あんな兵器、私も知らない」  マオは正直にそう述べた。だが彼女に対するバイオラ・ボルクスの眼にはそれを信じないと言う意志が見えた。ヴィクトールはジンカーが主張した主砲二番基とカロリーナが述べたエンジン部分の修復を完了し、確かに機銃座の修復こそまだ完遂していないが、一応はまともに戦える状態になっていた。そのヴィクトールで有っても、恐らく先の攻撃を受ければ一撃で沈められるだろう。そういう威力を持つ兵器が使われたのだ。バイオラが情報を求めるのも理解出来ない話では無い。だがマオに幾ら詰め寄ってもそれは全く意味が無い事だった。マオもそんな兵器が有る事は知らなかったのだから。 「マオ、しらばっくれるとただでは済ませません事よ? さあ、洗い浚い話してしまいなさい。あの兵器は何なのですか?」 「本当に分からないんだ。ただ、戦艦をぶつけるには聊か危険な相手だとは言える。あれだけの攻撃を薄ノロの戦艦が避けられるはずは無い」 「そういう分析はあたくしも出来ます。今欲しいのは正しい情報です。マオ、貴方何かあたくし達に隠していませんか? それだと場合によってはそれなりの処分を貴方は受ける事になります。ここで吐くだけ吐いてしまった方が後の貴方の扱い方にも変化が生じますわよ?」 「そうは言っても、知らない物は知らないんだ。あれだけの兵器、一体何に装備させているのかも分からない。白色光線だったから、バスター砲の一種だとは思うが、しかしあそこまでの威力を持つバスター砲をエンパイアーが開発していたとは私は情報を与えられていなかった」
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