死闘

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「では、貴方の敬愛する皇帝陛下があんな物を作り出し、そして実戦に投入した事は認めますね?」  マオはそう言われた時逡巡した。確かにあれはエンパイアーの攻撃だと思われる。だが皇帝陛下はあそこまで暴力的な兵器を作り上げて、そして実際に居住区に撃ち放つ事に何の抵抗も無かったのだろうか? しかし事実は事実として受け止めなければならない。実際にその一撃で、バルバダの町は滅びたのだ。跡形も無く。そこに暮らしていた人々の事をまるで歯牙にも掛けず、焼き払ってしまった。その残酷さはマオであっても吐き気を催すレベルだった。一体そこまでする必要が有ったのだろうか? その圧倒的な暴力で、ベトレイヤーを潰すだけでは無く――実際にレッド中隊は損害無しだ――周囲の民間人を殺す事を厭わない姿勢はマオは抵抗を感じていた。  だが皇帝陛下がそのような決定を下すにはきっと陛下なりの考えが有ったのかもしれない。マオは実際に皇帝と直接やり取りをした事は無いが、それでも陛下が徒に人々を殺戮する事を楽しむような存在では無いと信じていた。  ベトレイヤーに加わってから陛下に対するイメージがマオの中で変わり出していた。最初は奴隷衛星ラスタを見た時だったが、今もまたその時とは更に違う次元で同じ事を感じるようになってしまった。マオが信じる物は一体何なのだろうか? 皇帝はこのように虐殺を図る事を目的とされていたのだろうか? 疑問が次々に浮かんでは消えを繰り返す。 「陛下のお考えは正直言って分からない。ただ、今重要なのは敵には大量破壊兵器が有って、こちらには精々そのミニチュア版のような兵器しかないという事だ。何としても潰さなければ勝ち目は無い」 「どうでしょう、一度カソーレン市に戻ってバスター砲を更に集めると言うのは。どういう兵器を敵が使っているか分かりませんが、あたくし達の今の兵装で勝てる相手だという自信は正直あたくしには有りませんわ」 「バスター砲をこちらも使うと言うのか? だがどういう相手かも分かっていないのよ? 或いはこちらのバスター砲の攻撃を軽々と回避出来るだけの機動性を持つマシーンかもしれない」  だがその可能性を上げつつもマオはそれは無いだろうとも思っていた。あれだけの威力と広範囲への影響力を持つキャノンを考えると、恐らく超ドレッドノート級の主砲クラスの兵器だと言える。そんな物が素早く動き回れるはずは無い。こちらのバスター砲も命中率に難が有るとは言え、当てる事は難しい話では無いと言えよう。  ただ、敵がどれだけ守りの布陣を固めているかにもよる。それでベトレイヤー側もバスター砲を使うとなると、動きに制限が掛かる。バスター砲に頼り過ぎる作戦がどういう結果を呼ぶかはラクサミーを犠牲にした事から学んだはずだ。 「艦長、僕から良いですか?」それはワスだった。「敵が第二射を放つ前に攻めに行くのがベストだと思います。こちらから打って出ましょう。但し、ヴィクトールを正面に持って行く事は避けたいです。若しもこの艦を狙われれば防ぐ事が出来ません。ですがハイプレッシャー部隊ならば、素早く動き回る事で、あの攻撃を直撃を受ける事無く戦えると思います。どうでしょう、ヴィクトール、バーナメイラ辺りの艦載機を出して、敵をこちらから無力化させに行きます。その間のヴィクトールとバーナメイラの防御は、ブレイジングとアーリーアローに任せると言うのは? 時間が経てば経つ程、敵に再度砲撃のチャンスを与える事となり兼ねません。ここは速攻で行くべきでは無いですか?」  ワスの案は悪い物では無い。確かに砲撃の直後を攻めれば、或いは敵もあの砲撃を撃つ事が出来ないでいるかもしれない。ただ、恐らくそれにはかなりの覚悟が必要になる。何故ならば敵の情報をこちらが一切把握していないからだ。対策の立てようが無いまま、ただ無策に突っ込むのは無謀過ぎる。  しかし、今マオ達に出来る事は限られている。ベトレイヤーがこの星を押さえれば押さえる程、その敵にもう一撃放たせるだけの口実を作ってしまう。だったら優先順位として、最初にその敵を潰して置くに限るだろう。それをワスは言っているのだとマオは理解した。  バイオラは考え込むような姿勢を見せて、暫く黙っていた。彼女が何を考えているかは分かる。きっと余計な事をしてヴィクトールだけがマークされる事を避けたいと思っているのだ。 「それで、ライトオンダーはあたくし達に何を求めます?」 「ヴィクトールで僕等をカノーンの重力圏から脱する所まで運んでくれればそれで良いです。後はヴィクトールは退避して下さい。その敵は僕等で墜とします」 「そう簡単に行く物ですか? ライトオンダー、貴方を失う羽目にはなりたく有りませんわ。何しろ貴方は私の貴重な戦力――いえ、部下ですもの」 「僕の事を気遣って下さるのは素直に嬉しいと受け取って置きます。ですが、今危険なのは、このカノーンに住む人々の暮らしなのです。そこは履き違えにないで頂きたいですね。ベトレイヤーはそういう力無き市民達の武器となり盾となるべき存在です。今こそその役割に立ち返るべきです。僕等の力でカノーンに迫っている脅威を潰します。そうすれば、この戦いで出る犠牲を減らせるはずです」
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