第1章 眼力の引力

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持てる限りの服と、最低限必要な物を スーツケースに詰め込んで、5年間の結婚生活を過ごした家を出た。 何て無駄な時間を浪費したんだろう…… 結婚と引き換えに、大好きだった仕事も辞めたのに…… 「はぁ~……」 自然と溜め息が洩れる。 今日中にと、急かした甲斐あって、 元夫は私の要求を夕方までに手配した。 実力派俳優で世間に名を馳せる元夫…… あんな最低な男だったなんてっ! 見抜けなかった自分が憎らしい。 心で悪態吐きながら、 スーツケースを引っ張り、夜の街を歩く。 交差点に差し掛かり、足を止める。 見上げたビルに、大きい広告ポスターが見える。 あ……今トップモデルの湊だ…… 眼力凄い。こんな、イケメンに真っ直ぐ見つめられたら、その辺の女なんてイチコロかも…… そう言えば、あちこちに湊のポスターあるな……メンズのファッション誌の、表紙を飾るのもよく見るし…… そこで、はっと我に帰る。 ……顔の良い男なんて、誰も彼も変わらない。 私はもう、間違えないんだからっ! 決意を新たに、一歩足を踏み出した。
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