第1章 眼力の引力

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こんな夜に街中を、スーツケース引きずりながらひとりで歩き回るのも、何だか滑稽で、足早に目的地へ向かう。 駅から程近くに、真新しいマンションが見える。 あれかな?立地的にはかなり良い。 今日は、精神的に疲弊してる。 早く休んで、明日からこれからのことを、考えなきゃ…… マンション前に一組のカップルらしき、男女が見える。 何やら、女性が男性に詰め寄ってる。 えー!私はあの前を通過しなきゃいけないのっ? 修羅場なら他所でやってよ…… もう、今日は自分の分でお腹一杯だし。 しかし、歩を止めるのも不自然だし……どうしよう…… そう心の中で悩んでいると、こちらに振り向いた男性と目が合う。 男性は一瞬驚いて、目を見開いたが、次の瞬間、眼鏡越しに、とてつもなく妖艶な笑みを浮かべたが、直ぐに目の前の女性に向き直る。 その笑みを見た私は、それ以上前に進むことが出来ず、その場で立ち止まってしまう。 何……今の顔……? 「湊、私本気で湊が好きなのっ!」 男性に視線釘付けの女性は、私のことなど目に入らないのか、告白の真っ只中。 「……悪いけど、俺好きな女がいる。そ いつのことしか、考えられない」 直球、且つストレートな物言いを男性が口にしても、怯まない女性。 何かふたりとも美男美女だから、ドラマを生で見ている気分。 ……いや、見てる場合じゃないんだけど。 「だからっ、それって誰?いっつもそう言うけど、湊の周りにそれらしい 人いないじゃない!」 「それは、あんたが連日しつこく俺にまとわりつくから、彼女が不安になって……」 そう一旦言葉切った男性は、勢いよく私に振り向いた。
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