4115人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな夜に街中を、スーツケース引きずりながらひとりで歩き回るのも、何だか滑稽で、足早に目的地へ向かう。
駅から程近くに、真新しいマンションが見える。
あれかな?立地的にはかなり良い。
今日は、精神的に疲弊してる。
早く休んで、明日からこれからのことを、考えなきゃ……
マンション前に一組のカップルらしき、男女が見える。
何やら、女性が男性に詰め寄ってる。
えー!私はあの前を通過しなきゃいけないのっ?
修羅場なら他所でやってよ……
もう、今日は自分の分でお腹一杯だし。
しかし、歩を止めるのも不自然だし……どうしよう……
そう心の中で悩んでいると、こちらに振り向いた男性と目が合う。
男性は一瞬驚いて、目を見開いたが、次の瞬間、眼鏡越しに、とてつもなく妖艶な笑みを浮かべたが、直ぐに目の前の女性に向き直る。
その笑みを見た私は、それ以上前に進むことが出来ず、その場で立ち止まってしまう。
何……今の顔……?
「湊、私本気で湊が好きなのっ!」
男性に視線釘付けの女性は、私のことなど目に入らないのか、告白の真っ只中。
「……悪いけど、俺好きな女がいる。そ いつのことしか、考えられない」
直球、且つストレートな物言いを男性が口にしても、怯まない女性。
何かふたりとも美男美女だから、ドラマを生で見ている気分。
……いや、見てる場合じゃないんだけど。
「だからっ、それって誰?いっつもそう言うけど、湊の周りにそれらしい 人いないじゃない!」
「それは、あんたが連日しつこく俺にまとわりつくから、彼女が不安になって……」
そう一旦言葉切った男性は、勢いよく私に振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!