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何が何だか分からない、この状況に……パニックに陥りそうになりながら、震える手に力を入れ、両手で彼の胸を押し返そうとするも……更に腰を引き寄せられる。
「……美桜……」
耳元に唇を寄せ、甘い声で名前を囁かれただけで、身体がゾクゾクして力が抜けそうになる。
まるで甘い痺れのように……
彼は私を抱き締めたまま、歩道の塀の壁に私の背を押し付ける。
壁と彼に挟まれ、逃げ場を失う。
何これ……?これが女子に人気で名高い、所謂壁ドンてやつですか?……ていうか、何でっ?何で私が、こんな道端で、こんな状況に合わなきゃなんないのっ!?
彼が壁に肘を曲げ、手をついたので、先程まで身体がぴったり密着していた時より、少し……
本当に少ーしの隙間が出来る。
彼の肩越し……2メートル弱先に、怒りと嫉妬、悲しみを混ぜた表情でこちらを見つめる女性が目に入る。
「余所見すんなよ」
彼の手が、私の顎をぐいっと持ち上げる。必然的に彼の目と視線が合わさる。
強く、真っ直ぐで情熱的な目。
こんな至近距離で、眼力で見つめないでー!さっきから、胸の鼓動が煩いくらい鳴り響いて、口から心臓が飛び出そうなんだからっ!
街中で見た、広告ポスターの目より……
ずっと近くて、熱い眼差し。
そんな目で見つめられたって、私はイチコロになんか……なら……な……い!?
私がそんなことを考えている間に、彼は私を見つめたまま……首を傾け、顔を近付ける。そのまま……彼の薄く柔らかい唇が、私の唇に触れる。
驚きのあまり、目を見開いた私……
思考回路が、完璧に遮断されてしまった。
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