第1章 眼力の引力

6/8
前へ
/213ページ
次へ
触れるだけのキスから、1度唇が離れ、 「……美桜……ん……」 切なさと甘さを含んだ声で名前を呼ばれ、直ぐに唇が塞がれる。1度目のキスより、荒々しく。 唇を吸われ、舐められる。 「……んっ……んん……!……い……やぁ……」 言葉を発したため、出来た唇の隙間から舌を入れられ、歯列をなぞられる。 私の逃げる舌を追いかけ、簡単に絡めとり、唾液が混ざり合う。 「……んんっ……う……んっ」 背筋がゾクゾクして、身体からどんどん力が抜けていく。立っていられなくなった私の腰に手を回して、深いキスを続ける。 互いの口から紡ぐ、水音が響く。 その音が、やけに自分の耳に響き、羞恥心を煽る。 誰かが走り去る足音が聞こえ、最後に舌を吸われ、 ゆっくり唇が離れる。 銀の糸が彼と私の唇を繋ぐ。 「……はぁはぁ……はぁ……」 まだ、息が整わない私とは違い、平然としている彼。 親指の腹で唇を拭う。 やっぱり……顔の良い男は最低っ! 女なら誰でも良くて……この男も、会ったばかりの私と、こんな……こんな激しいキスを簡単に出来る。 元夫以上の怒りが込み上げてくる。 キッと彼を睨み、 「……嘘ばかり言って……何してくれんのよっ!」 ──パンッ! 彼の頬に平手打ちをかまして、震える足に力を入れ、その場を後にする。 私の後ろ姿を、切なげな目で見つめたまま…… 「……嘘なんか……言ってねぇよ……」 怒り心頭で、マンションに向かう私には、彼の呟きは届かなかった。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4115人が本棚に入れています
本棚に追加