第1章 眼力の引力

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エントランスを抜け、エレベーターに乗り、15階のボタンを押す。 部屋のドアロックを解除し、新居に足を踏み入れた所で、ドアにもたれずるずると床にしゃがみ込む。 今日1日で、自分に起きた出来事が、信じられないことの連発で、心を平常に保つことが出来ない。 元夫に対しては、怒りより嫌悪感の方が強かった。透が発する言葉の数々に呆れ、20代の大事な時間を奪われたこと… …結婚前に見抜けなかった自分が、情けないとさえ思った。 一生添い遂げなくて良かったと、本気で安堵した。夫の浮気が原因での離婚なのに、こんな清々しい気持ちの人、他にいるのっ? ……本当は、私の方が愛していなかった? だって、透と離婚したことより、さっきの……湊とのキスの方が、私の心を占領している。 そっと、唇に触れる。 あんな刺激的で激しいキスは……初てだった。 そして……嫌じゃ……なかった。 嫌じゃなかったと思う自分も、信じられない。 あの目に見つめられると、抗えなくなる。 そこで、はっと我に帰る。 私……怒りに任せて、トップモデルの顔を殴った…… でも、悪いのはあっちだし。 言い寄ってきた女性に見せ付けるためのキス……私は利用されただけ。 でもでも、モデルはその身ひとつが商品だから……慰謝料とか請求されたら、どうしよう……! この目まぐるしく過ぎた1日が、これからの私に起こることの、幕開けだったなんて、この時の私は知る由もなかった。
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