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「……実はな、これから秀司に会って来ようと思ってるんだ。」 「――っ、」 思わず、息を呑んだ。 そうだ。俺が秀司に言った言葉を、この人は知らないんだ。 『俺と競う気も、上手くなろうとする気も、試合に勝つ気さえ無いなら、もうバスケなんて辞めちまえよ!』 夏の大会の帰り道、俺が秀司に向かって言ったあの言葉。 顧問どころか、他の部員たちも知らないはずだ。 秀司が辞めた原因が、俺にあることを。 すると先生が、ふっ、と少し悲しそうに笑った。 「秀司は……どことなく俺に似てるからかな、分かるんだよ。」 「……何が、ですか?」 「あいつの気持ちが、な。」 その言葉と、俺を見る目で、俺は悟った。 ――そうか。 この人は、気づいてるんだ。 俺と秀司の間に何があったのか、気づいている。 でも、敢えて俺に何も言わないんだと、俺は察した。 「先生、すみません。俺、この後用事があるので、そろそろ失礼します。」 「ああ、分かった。引き止めて悪かったな。 自主練、サボらずにちゃんとやれよ。お前には期待してるからな。」 「分かってます、ちゃんとやりますよ。それじゃ。」 「――光輝。」 「はい?」 部室に向かおうとしたが、先生に呼び止められたので振り返ると、言いにくそうな顔をして先生は言った。 「……秀司のことで何かあれば、お前にも連絡する。」 「…………失礼します。」 その言葉に特に何も返さず、先生の顔を見ずに頭を下げ、俺はその場を足早に立ち去った。 先生に見られると、全てを見透かされているような気がして。 そう、あの目だ。 言わなくても分かると言わんばかりの目が、どことなく秀司に似てるんだ。 .
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