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「橘は優等生だが、実はあまり賢くないな」
「ひどい……」
悪辣な言葉に、おまえの黒目がちの瞳からぽろりと涙が零れた。
なぜだろう。愛してほしいと縋るおまえを突き放して、絶望の表情を確認したくてたまらなくなる。
大人げないと分かっていても、昏い衝動が止められないんだ。
「そんなおまえを可愛いと思ってるんだから、それで我慢しとけ」
好きと言わない俺の、ぎりぎりの愛の告白。
おまえが高校を卒業するまで、俺に赦された愛撫は子供だましの抱擁だけ。
一応俺にも教師としての体裁がある。
据え膳を食えない試練を卒業まで味わうことに、申し訳ないけどおまえを道連れにするよ。
「……せんせいの、ばか、いじわる……」
いじけた様子で、俺の胸をぽかぽか殴る姿に、小さな笑いがこみ上げる。
「意地悪な俺を好きなおまえは、物好きなヤツだ」
「……だって、いじわるな先生が、好きだもん……」
そう言うと、おまえは長い睫毛に彩られた瞳を伏せて、くたりと俺の胸に頬を寄せた。
ためらいなく頼る、華奢な身体が愛おしくて、俺は柔らかい黒髪にキスを落とした。
突然、俺の腕の中に飛び込んできた、天使。
卒業の日まで、俺を好きなままでいてくれるだろうか。
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