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「うわ、橘、えらく着込んで。雪だるまみたいじゃないか」
大晦日の、夕方のこと。
玄関を開けて、僕を見るなり、広瀬センセイがぷっと笑った。
「だって寒波来ててものすごく寒いって、おばあちゃんが言うから……」
「だからって、着すぎだろ、いったい何枚着てるんだ?」
いつもはクールなセンセイが、いつまでもおかしそうに笑っている。
僕は寒がりで、おばあちゃんは超過保護。
だから必然的に厚着をさせられる。
たしかにダッフルコートはいつも以上に着ぶくれしてて、マフラーぐるぐる巻きで顔半分隠れてるし、毛糸の帽子で耳まで覆っているけれども。
センセイの笑顔は見たいけど、みっともない僕を笑わないでほしい。
「だから家の近くまで、車で迎えに行くって言ったのに」
「だって……」
センセイにわざわざ出向いてもらうのが申し訳なかったんだ。
僕、センセイの、恋人じゃないし、好きでいるのを許されただけの存在……センセイ公認で絶賛片思い中なだけなのに。
勝手にいじけて俯いていると、頭上からはあっとため息が聞こえてくる。
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