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「いいの。顔…綺麗だね」
「え?そう?ありがとう。柚に改めて褒められると嬉しいんだけど…へへ」
違う意味で捉えてるねきっと
確かに元は綺麗なんだけど
ニコッと笑って左手を差し出し手を繋いでとジェスチャーする。
その左手の薬指にはちゃんと指輪が…
なっないじゃないか!
でもなんか言えない…
まだほんの少し疑っている自分がいる。
良い風に考えるとするならば、
事故で無くしちゃった?
あの河川敷に行って探して来てあげようか?
…とも言えない…。
柚季は軽く溜息をつくと杏一の左手を優しく握る。
「傷がないねってこと」
「あぁ、いや顔守らないと仕事できなくなるし、咄嗟に守ってこっち骨折したみたい。フルフェイスだったからってのもあるよね。頭も無事だったみたいだし」
「そっか」
本当大事故じゃなくて良かったよ
「トラックの運ちゃんさ飲んでたんだって酒。全く困るよー俺見えなかったんだって。俺透明人間になったウケるよね」
こんなに事故を面白く言えるの?当事者が。
杏一は私の手をさわさわにぎにぎしてくる。
ほんと子供みたいで可愛い
「ホント可愛い手だね。」
あぁ、私の手が思われてたのか。
「ねぇ、柚、そこの引き出し開けて」
杏一はベッド脇の棚を見て言う。
「何番目?」
「一番上」
引き出しを開けるとそこには淋しそうに佇む銀色のキラキラと輝く輪っか。
「こんなとこに」
「指輪してないと思ったでしょー。へへ。検査の機械入るじゃん。あの時金属だめだから外されたみたい。社長が持っててくれた。はめて?俺右手使えなーい」
そう言って今度は左手の指をピンっと伸ばし差し出す。
右手の指は使えるよね?
まぁ…今は優しくしてあげる。
柚季は指輪を取ると杏一の綺麗な手の薬指を持ちあの時のようにはめた。
こっちから面と向かってするとなんか結婚式の指輪交換みたいじゃない
ちょっとドキドキしちゃった
一人で舞い上がって恥ずかしい…
「いっいい?」
「うん!これでいい!安心!これで柚が帰ってもずっと側にいる気がする。ありがとっ」
相変わらず素直に喜ぶんだから
私も…
「柚もやったげるっ」
「えっ?」
私はもうはめてるよ?
杏一は指輪をはめた左手で柚季の左手を自分の腿に置いて、彼女の指にはめてある指輪を一度外した。
「結婚式の指輪交換の練習だよっフフフ」
そう言ってニコッと笑うとまた左手で私の左手の薬指にはめ直した。
似たようなことを思ってるのがもうわらけてくる。
ふと練習って聞いてドキッとした。結婚式をするのかと思った。これから忙しいKYOUにそんな暇はない。きっとごっこだ。これは。出来ないから今したんだ。
「やっぱり結婚指輪一緒に買いに行こうね?柚が気に入ったやつでいいよ。安くても高くても。玲子さんから怒られちゃった。『きっと要らないって言うから一緒に買いに行きなさい』って」
あの時言われたのか
「ハハ、うん、ありがと」
「ねぇ、柚」
「ん?」
「骨折が治ったらさ、復帰するんだ」
「うん」
「三ヶ月後くらい」
「うん」
「復帰する直前に、結婚式挙げようか」
「う…えっ…え?」
「俺、柚のウェディングドレス…見たいなぁっ」
あぁもうなんなのあなた
幸せ過ぎて怖いって。
今日私は地獄から天国へ行った気分を味わった。
「お兄さんにも見せたいでしょ?壮志君も玲子さんも見たいと思ってるはずだよ」
なんであなたから離れてしまったのか
でもこれも私達に必要な時間だった
じゃないとこんなにあなたの大切さを感じれなかったのかもしれない
柚季は杏一の腿の上に顔を埋めていた。
その頭を優しく撫でる杏一。
あなたの為に何回泣けば許してくれるんだろう。
「柚、顔上げて?」
柚季がゆっくり顔を上げると左手で涙を拭いてあげた杏一は唇を優しく重ねる。
私は人生の9割はあなたで涙を流してるの。
わかってる?
「返事は?」
「ぅん、あっありがとう。
…よろしくっお願いします」
双方の満面の笑みに嘘はなくそこには同じ気持ちで向き合い寄り添い合い支えていくことを誓う二人がいた。
「へへ、やった」
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