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部長の『部内朝礼を始める。』の声と共に、前期の結果と、今期の目標と課題について説明を受ける。
それらが終わった後で、部長は異動者の方に目を向けた。
「えー、既に知っている者がほとんどだと思うが、今日より一課に配属される藤田君だ。藤田君、挨拶を。」
すると、長身の男性が一歩前に出た。
(うわー、男前だなあ。)
そう思ったのは琴音だけじゃないのだろう、周囲の女性社員からも感嘆のため息が聞こえる。
身長は180cm位だろうか。
藤田はひきしまった体にブラックスーツをそつなく着こなしている。
そして、落ち着いた表情と、軽く撫でつけた髪型のせいか、とても知的に感じられた。
事前情報として、琴音は藤田が現在35歳で、海外営業部では有名な”切れ者”であること、そしてバツイチであることを知っている。
そのせいもあってか、琴音は思わず上から下まで藤田を観察してしまった。
(こんな人と別れるなんて、奥さんも相当美人なのかな。)
と考えていると、藤田が堂々と自己紹介を始めた。
「藤田樹(ふじたいつき)です。本日付で国内営業部、営業一課の主任として赴任しました。私は海外営業部に長くいた為、国内営業部は久しぶりの赴任になります。昨今、国内営業部は業績が右肩下がり、特に一課は、3期連続予算未達成と聞いています。しかし、私が赴任したからには、今期は必ず予算の大幅達成を成し遂げます。」
そこまでサラリと言った後、藤田の視線が国内営業部の面々の上を通り過ぎ、琴音で止まる。
「!」
藤田はそのまま琴音から視線を外さずに、ふっと笑う。
「そのつもりで、みなさんもよろしくお願いします。」
パチパチと拍手が起こる。
その拍手を合図に、藤田の視線は琴音から外れる。
(び、びっくりした・・・。)
琴音の周囲では、『さすが海外営業部エースだな。』『社長のお気に入りらしいぜ。』等、様々な囁きが交わされる。
(確かに、すごくインパクトのある挨拶だったな。)
普通、赴任の挨拶なんて、障りない挨拶で終える人が多い中、予算大幅達成を宣言するとは・・・。
藤田に圧倒される空気が流れる中、部内朝礼は部長の『以上だ。』の一言で終わり、みんなそれぞれ自分の仕事に戻っていく。
琴音も自分の席に戻る途中、ちらっと藤田の様子を伺う。
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