3023人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
藤田はそれだけ言い残すと、颯爽と店を出て行ってしまった。
残された琴音は、何となく冷えたコーヒーを口に含む。
(すごい一日だった。)
(たくさんの出来事がありすぎた。)
琴音は藤田からもらった靴に視線を向けると、小さく呟く。
「本当に契約なんてして、良かったのかな。」
琴音は藤田のことを考える。
会社で見た、エリートサラリーマンの姿。
さっき見た、悪魔の様な笑みを浮かべる男。
(でも・・・、『変わりたいか?』と問いかけた藤田さんの目は、とても真剣だった。)
琴音は靴の袋をぎゅっと抱きしめると、そっと呟く。
「うん。信じてみよう。」
今まで勘違いの中で生きてきた鈴木琴音、29歳。
微睡の様な日々が今日終わったことを、琴音はまだ自覚していなかった。
最初のコメントを投稿しよう!