愛 1 喰 : 衝動

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 どうしてこんなことになったのだろう、と私は考える。 脳は思考を止めずに動いている癖に本能は間逆のことを考えている。目の前で横たわる彼を異常に欲していて、口からは自然と唾液が零れ、重力に従って彼の胸板に落ちる。 ぬらり、とその部分だけ厭らしく濡れて妖艶に見える。  ほぼ無意識に固唾を飲み込むと喉が鳴り、私の頭部は胸板へ近付いていた。理性が警告を出して止めようと必死になっている。本能はこのままでいいと言っている。 よくアニメで自分の中にいる天使と悪魔が葛藤しているシーンがあるが、今まさに私はその状態だ。 「ダメだ、落ち着け、私ッ」  右手を噛み、冷静さを取り戻そうとするが、口の中に広がる鉄の味が余計に興奮を駆り立てる。切れるほど強く噛んでも、興奮は止まらない。 「いいんだ、いいんだよ。莉沙」  私の下にいる上半身裸の彼が、逞しい腕を伸ばして髪を撫でてくる。一本一本に神経が通っているみたいで、触れられた部分から頭皮にかけて熱くなる。  何がいいものか。これっぽちもいいはずなんてないだろう。 「嫌、私が嫌なの…!」  切羽詰まった喉から漸く出た言葉は、まるで獣の唸るそれだ。声まで人間離れしたとなると、いよいよ化け物になってきたのだろう。 「俺は莉沙が望む事なら、いいよ。だからそんな顔しないで」  髪を撫でていた手は頬から唇に移る。触れられた部分が熱帯びて、まるで蛇が伝ってきているかのよう。きゅっと硬く結んだ唇を解す様にして開けられ、その中に指が入って来る。口の中いっぱいに広がる、彼の味。 「ふっ…んんふぅっ…」  理性に贖えなくなった私は夢中にそれにしゃぶりついた。三本入れられた指は口の中でされるがままになっており、転がせば甘いキャンディの味がする。 唾液が溢れて、彼の手の甲を濡らしていく。その光景に興奮してしまい、指を口から出し彼の首筋に噛み付いた。 「ん、はあっ…」  口から吐息が零れる。少し尖った八重歯を突き立てれば頭上から小さく呻く声と、そこから溢れる少量の血。 薔薇のような香りが鼻腔を擽り、それだけで私の愛液が溢れだすのが分かる。とうにショーツのクラッチ部分はびしょ濡れで、当たっている個所が気持ち悪い。
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