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「すーずーくん、今度の日曜デートしようよ!」  民家を改築した広い日当たりのいい2部屋にピアノを置いている。  七瀬ピアノ教室  それが、ここの名称。 「煩い。課題やらねぇなら次の生徒呼ぶぞ?」 「えー、ヤダよ。やる。やります」  いたって本気の声に、渋々従う。  出逢いから8年経った珠華と涼音の関係は、ピアノ講師と生徒。もしくは姉の旦那の従兄弟。 「なら早くやれよ…ほら」  促させ、渋々従う。  楽譜を拡げて、ピアノに向かう。  別にピアノは嫌いじゃない。けれど、これといって好きな訳でもない。 「ストップ。お前、もっと抑揚つけられねぇか?のっぺら過ぎだろ?」  譜面通りにリズムと音階を拾って弾いてみるが、途中で止められる。 「だって、よくわかんないんだもん」 「楽譜に描いてあるだろ?」  楽譜をペンでコツンと叩く。 「早さとか、強弱はしっかりやってるじゃん」  頬を膨らませる珠華に、溜め息が聴こえる。 「…わかった、ちょっと避けろ」  言われて横にずれると、涼音が鍵盤を弾き出した。  奏でられるのは誰でも知ってるような合唱曲の伴奏。  前奏に体を揺らしてリズムを取る。 『わーらべーはみたり のーなかのばーら…』  ピアノのそれとは違って、抑揚豊かな歌声。  室内に拡がる声は、耳ではなく胸に響く。 「お前、歌うならこんなに鮮やかに奏でられるくせに…なんで、ピアノになるとのっぺらぼうなんだよ」  ワンコーラス歌わせると伴奏を止めて苦笑する。
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