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苦しかったり、頭がくらくらっときたりするが、嫌でもないのでやられるがままになっているといきなりガッと引き離された。
「いい加減離してやって下さいよ、おばさん。おばあちゃんも止めてあげて…妹も拒否れ」
いつの間にか来ていた涼音が不機嫌そうに溜め息をついた。
「すずちゃんは可愛くない!大きいし、むっすりだし!」
「この歳で可愛いもくそもないだろうに…」
呆れたように首をふり当然のように珠華の隣に座りカップに口をつけた。
それに慌てたのは珠華だ。
「すずくん!それ、ぼくのカップ!」
小学生の頃から知っていて今さら同じカップで飲んだからなんだと、カップを傾ける。
「別に一口くら…!」
「ダメ!それ、コーヒーじゃなくてカフェモカだもん!吐いて、ぺってして!」
他人と回し飲みが嫌だとか、間接キス?っきゃ、でもない。
問題は中身。
「これ、ココアが…」
「そう!だから言ったじゃん!」
しかし、時すでに遅しで飲み込んでしまったらしい彼はカップを置くとそのまま伏してしまった。
「…すずくん?……大丈夫?」
恐る恐る覗き込んでみると勢いよく抱きつかれた。
「だいじょーぶじゃない!…俺も抱きついてやるぅ……クッキー食わせて?」
あーん、っと抱きついて口を開ける涼音は先ほどとはまるで別人。
冷たく厳しい彼と変わって、甘ったれのスキンシップ強め。
「ハイハイ。どうぞ?」
クッキーを口まで運んであげると、一口かじる。
咀嚼をして飲み込んで満足した模様で、満面の笑みを浮かべるとコロッと眠ってしまった。
「ごめんね、珠華ちゃん」
申し訳ないと手を合わせる和歌に首を振る。
「いえ、むしろ役得です!」
自分の倍以上ある涼音にしっかり抱きつかれて今は座っていたソファーに倒れてしまっている。
抱きついている本人はぐっすりと眠りこけているので体重もかかっている為、正直重い。
けれど、珠華が涼音を好きなのは公然の秘密なので和歌も詩乃もあえて引きはなそうとはしない。
「でもすずちゃんもバカよね、コーヒーに混じってちゃんとココアの香りがするのに…」
「あら、和歌。おもちを焼いてて余裕がなかったのよ…かわいいじゃないの」
甥と孫をけちょんけちょんにしてコーヒーを楽しむ二人はまるで魔女だ。
でも、仕方がない。
なんて言っても、自分が苦手なモノを自らのミスで口にしたのだ。
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