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「コートも着ないで外に出るやつがあるか。こんなに冷えてしまってるではないか」
低い声で耳元で囁かれ、いっきに頬に熱が集まるのを感じた。
「だ、大丈夫ですから」
これ以上抱き締められていたら恥ずかしくて死んでしまう。必死に両手で彼の胸を押してみるけど、その腕の檻はびくともしない。
「あの日、君は寂しげに見えた」
わたしを抱き締めたまま、彼が呟く。あの日?
「君が髪を下ろした姿も、眼鏡を外した姿も初めて見たんだ」
彼の言わんとしていることを察して、驚いて顔を上げた。まさか『山茶花の君』って。
「切な気に瞼を伏せる君が何を考えていたのか知りたくて、遠回しに聞いてみたりしてたんだ」
「まさか会長が言ってた女性って、わたしだったんですか」
直球で尋ねると、困ったような表情で苦笑する。こんな顔する彼は初めて見た。
「君はいつも真っ直ぐだ。だから君にあの日のことを聞いて、『好きな人のことを想っていた』とか正直に言われたらと思うと、怖くて聞けなかった」
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