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「そうだね」
簡単に答えたけれど、口元は綻んでいた。タカヤもそれに気づいている。キーボードを、一際高い音で叩くと、彼はもう一つ溜息をついた。手元にあったチョコレートに手を伸ばす。
ごり……。
甘い香りがこちらまで届いてくる。タカヤなら、甘いものには目がないタカヤなら、何も思わず食べてくれるだろうと確信していた。だから安堵していたけれど、なんだか今は胸が痛い。
この作戦は、花の立案だ。
私はタカヤのことが好きだ。大好きだ。一緒に昼寝をしてしまって、目が覚めた瞬間、タカヤの寝顔が僅かな空間を隔てた先にあるあの瞬間は、私にとって至福の時だ。それくらい、私はタカヤが好きなのだ。
しかし、それを当のタカヤは知らない。いや、彼の方が大人だから、気づかないふりをしているのかもしれない。十以上も離れた私たちが一線を越えないために。
タカヤが言ったことがある。
男は、好きでもない女を平気で抱くからな。
少し面食らった。タカヤの意味するところは、自分自身から私の身を守らせるためなのだ。そして、タカヤがタカヤ自身を律するため。それ以上でも、以下でもない。ただ、その時、この人は私を女として見てないのか、やっぱり、という胸の痛みがなかったといえば嘘になる。
だから、今年のバレンタインはすごく悩んでいたのだ。
渡すべきか、否か。
甘い物好きのタカヤのことだ。何の意味も持たないチョコレートならば、喜んで受け取ってくれるだろう。でも、それが特別な意味のこもったものだったら。
答えは簡単だ。受け取らない。
タカヤは、女の人からそういう感情を向けられることを嫌う。別に、男が好きというのでもない。以前に彼女がいたようなことも言っていたし、その、自分の慰め方もこの前私の男友達とコソコソと話していたりした。
ただ、女の人がそういう感情や意味を込めて送るものすべてに、タカヤは自分への期待も受け取ってしまうのだ。
この見返りはどれくらいなの。そういう、目に見えないメッセージを受け取ってしまう。それが彼には耐えられない。
たぶん、そうなのだ。タカヤが話してくれたわけではないけれど、一緒に過ごすうちに、彼がそういうことを拒絶していることに気づいた。
私が食べるものを適当に選べなかったり、私の誕生日をどうするか、今日は家に来るのか。私の期待が伴うものに対して、彼は固まる。
今回もきっとそうだ。
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