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いくら想いが通じ合っていようと、それだけは守らなければならない。俺のためにも、何よりサラのためにも。
俺が後ろ指を差されるのは構わない。ただ、サラの純粋な想いが、邪な憶測で穢されるのは我慢ならなかった。
三つ目を口に放り込む。彼女の細やかな気遣いと愛情だ。俺が引いた一線を、彼女もまた愚直に守ろうとしているのだ。この愛は紛れもない。
そう思うと、なんだか彼女の細やかな愛に報いたくなった。決して義務感からではない。
ある程度文章を打ち込んで、エンターキーを叩く。今日はここまでにしよう。続きは明日だ。
「サラ」
いつも通りを心がけて彼女を呼んだが、何だか必要以上に優しくなってしまった。怪訝な顔をするかもしれない。振り返ってみると、口をもごもごと動かしながら首を傾げていた。普段無口な彼女の意思表示の一つだ。
「何?」
俺の手招きに吸い込まれるように、サラがこちらに寄ってくる。鼻先が触れるかと思うほど近づいた時、俺は、彼女の頭に手を乗せた。
「……? どうしたの?」
疑問符を語尾につけているが、目は細められ、口の端は僅かに吊り上っている。嬉しい証拠だ。そのまま優しく撫でてやると、心地よさそうに鼻から息を吐き出した。
カカオの香りが、ふわりと漂う。
デスクライトだけに照らされた部屋が、薄暗い。パソコンの起動音だけが響く部屋が、二人の息遣いをこれでもかと思われるほどに浮き彫りにした。こちらの胸の高鳴りが、サラに聞こえはしまいかと心配したが、不思議そうに俺の目を見つめる彼女に安堵した。
「今度、出かけるか。二人で」
「ふたりで?」
驚いたのか、たどたどしい口調で言葉の最後を繰り返した。
「お散歩とお買い物行きたい。冷蔵庫の中空っぽ」
何故か夕食を作って帰っていく彼女は、俺以上に俺の家の冷蔵庫事情を知っている。餌付けされているのかもしれないが、俺が彼女の手料理を食べると喜んでくれるので、なんだか情けない気もするが夕食を作ってもらっている。
「もっと遠出をしようって意味なんだけど……」
「遠くじゃなくていい。タカヤとお出かけしたい」
淡々とした口調であるが、彼女の意志は固いらしい。僅かに眉間に皺を寄せたのがその証拠だ。よし、わかった。
「じゃあ、散歩と買い物な。明日行くか」
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