チョコレート・フライト

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 もしこの広い宇宙の中にチョコレートでできている星があるとしたら、彼はきっと卒倒してしまうに違いない。それだけ彼はチョコレートが嫌いだった。  だが、実際そのような星があるのだ。この広い、しかも同じ銀河の中に。それを考えただけで彼は全身から血の気を引くのを感じた。なぜこの僕が。宇宙飛行士になったのはよいが、そんな星に行くなどと聞いていない。本当はもっと美しい星で美しい自然と動物を観察したかっただけなのだ。それなのになぜ。よりによってチョコレート嫌いの僕が。 地球は西暦3000年を越え、想像もできないくらいに技術が進歩していた。その進歩のおかげで地球は元の姿をとりもどし、地球温暖化も食い止められたほどだ。そして宇宙へ行くのも気軽になっていた。宇宙飛行士という職は一般的になり、クラスメイトのうち、一人か二人は宇宙飛行士になっていることなど珍しくなかった。その目的は宇宙旅行のアシスタント、言うなれば飛行機のパイロットやキャビンアテンダントなどのような仕事が主だった。彼は幼い頃から宇宙に興味があり、将来の夢を叶えたわけだが、その初仕事が大嫌いなチョコレートの星に行くことであった。全く、本人は不幸な上この上ないと思っていることだろう。 彼はぼんやりと宇宙船の窓を見つめる。そこに映っていたのは自分の憂鬱そうな顔だった。その奥にはすっかりスペースデブリのなくなった美しい宇宙が広がっている。 「おいどうしたんだ、そんな憂鬱そうな顔をして」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!