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全くなんなんだあいつは。そもそも相変わらずとか言っておきながら昨日会ったばかりじゃないか。それにあいつと僕は所属している部門が違う。あいつはCA課だし、僕はパイロット課だ。全く、チョコレートの星といいどうしてこうも不幸が続くかな。
彼はそう頭の中で4~5回繰り返すと、気持ちを改めてイスに座り直す。
「おい、乗客が全員乗船したみたいだぞ。準備はいいか」
「はい。大丈夫です。いつでもどうぞ」
「わかった。ではそろそろ始めるとするか」
初めてのフライトだ。彼はワクワクを胸に握りしめながら操縦桿を握る。先輩パイロットの乾いた船内放送は耳に入らない。
「まもなく、当機は宇宙へ向けて発射いたします」
その言葉だけが聞こえた。
彼はコックピットの様々なボタンを操作すると機体はごうごうと音をたてて発射した。もうその後はあまりする仕事がない。機体は地球の衛星軌道に乗り、その遠心力を利用してチョコレートの星へとワープする。その間はパイロットたちには仕事がない。ただ、不具合が無いか見守っているだけでいいのだ。
「当機は無事に発射いたしました。ご到着まで宇宙の旅をお楽しみください」
彼と先輩パイロットはのんびりとしていた。目の前の世界がビュンビュンと走馬燈のように流れていく。その景色にうっとりとしているととたんに景色が静止した。
チョコレートの星は同じ宇宙の中の同じ銀河の中なので着くのは早い。
「ただいまワープが完了いたしました。到着まで今しばらくお待ちくださいませ」
先輩パイロットが機内放送を始める。彼はまた気持ちを引き締めて操縦桿を握った。
「いくぞ、新人」
「はい」
目の前に見える茶色い星に向かって機体は進んでいく。
どうせなら突然事故が起こって全然別の星に着けばいいのにな。
彼がそんな不謹慎なことを思っていると、機体は突然がくんと揺れた。客席がどよめく。
「おい、どうした」
機長がコックピットに入ってくる。
「わ、わかりません」
先輩パイロットがそう答える。
「おい、新人。変わってくれ」
「は、はい」
彼は機長と交代をしてその様子を見守った。機長と先輩パイロットは何か話し込みながらさまざまなボタンを押している。
また機体に衝撃が走る。機体はバランスを失いチョコレートの星に向かってまっすぐに進んでいく。
「おい、エンジンを止めろ」
「え、エンジンが止まりません」
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