チョコレート・フライト

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 見ると先輩パイロットは必死に同じボタンを押し続けている。だが、機体は止まらずに星に向かって一直線だ。 「ぶ、ぶつかる」 チョコレートの星の大気圏を突っ切ると機体はチョコレートの野原に不時着した。 「は、はは、どうにか着陸できたようだな」 機長は乾いた笑いを発する。窓には散乱したチョコレートがへばりついていた。彼は思わず口元をおさえた。 「た、ただいま当機は不時着いたしました。原因と状況を確認して参りますのでお客様はその場でお静かになってくださいませ」 客席がうるさくなる。おい、どうしたんだとか返金はいつになるのかとかこれは宇宙航空法に反するだとかそんな声が聞こえてきた。  機長と先輩パイロットは必死にコックピットをいじくり回している。 「あ、あの、先輩」 「何だ」 「僕は何をしたらよいのでしょうか」 「あ?ああ、そうだな、外の様子を見てきてくれないか。ここは酸素もあってそのまま外に出れるはずだから」 「はい」 彼はそう返事をするとコックピットを出た。そこで同僚に鉢合わせる。 「ん?なんだお前も外の様子を見に行くのか」 「そうだけど。何だよ」 「いや、ちょうど一人だと心細いなんて思っていたところだからありがたいなって」 「いや、お前と行動する義理なんてないね」 「はあ、全くこんな時くらい普通にしろよ。一人より二人の方がいいだろ。仕事効率とか。それに俺は自慢じゃないが力も強いし何か役に立つかもしれない」 確かに、同僚はとてもCA課に所属しているとは思えないようなくらい、がたいが良い。柔道家といった方が真実味がありそうだ。 「まあ、そうだな。行くか」 「おう」  外に出ると意外にもチョコレートの甘いにおいはしなかった。 「ここのチョコはカカオの配分が高いからそんなにチョコ臭い訳ではないそうだ」 「別にそのくらい知っている」 野原は本当にチョコレートの草が生えていて、周りをチョコレートの木が取り囲んでいた。そのチョコレートの木々の間から何かが近づいてくる。 「あれはここの先住民か」 同僚は顔をしかめる。もしかしなくてもこれはまずいんじゃないか。こうして先住民の怒りに触れた僕たちはみんな捕まってよくわからない儀式の生け贄にされるんだ。そしてこんなチョコレートの中に埋められて骨になるんだ。彼はもう涙を浮かべて立ちすくんでいた。  そしてその予想はほんの一部当たることになる。
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