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彼が目を覚ましたのはチョコレートの家の中だった。その顔を先住民たちがのぞき込んでいる。彼はそのまま雷に打たれたように動けなくなってしまった。
どうせ死ぬのなら世界一の美女と握手をしてから死にたかったな。
彼はそんな事を考えていた。
「おはよう。早くに気絶しちゃうからどうしようかと思ったぞ」
同僚は奥でお玉のようなものをもって器に何かを入れている。
「お、お前何して」
「まあまあ、これ食べてから気持ちを落ち着かせような」
「そ、それってチョコレートじゃないだろうな」
「そんなわけあるか。ここでのチョコは木みたいなもんだ。お前は地球で木を食べるのか」
「いや、食べないけど」
その器がチョコな時点でもうだめんだよなと彼は口の中でつぶやく。
器の中には豚汁というか肉じゃがというか味噌汁というか。とにかくそのような類いの何かがはいっていた。
「うわ、うまいなこれ」
「だろう。ここはうまいものが多いんだ」
彼はしばらく夢中になってそれを食べていたが、先住民がこちらを見ていることに気がついて黙り込んでしまった。
「心配するなあいつらは俺の育ての親だ」
「は」
「いやあ、本当に俺を取り返そうとして宇宙船一つ墜落させちゃうなんて驚いたよ」
「い、いやちょっと」
「まあ、なかなか俺も帰らなかったのがいけないしな。さすがに墜落させちゃうなんてな。やり過ぎだよな。本当に」
「ごめん。意味が分らないんだけど」
「ん?ああ、俺はな、小学校くらいまでここにいたんだ。なんだか宇宙旅行の時に親父が俺を落としてしまったらしくてな。で、ここにいる先住民に育てられてたって訳」
先住民が彼に小さくお辞儀をする。彼も小さくお辞儀を返す。
「でも地球の親が俺を迎えに来て地球に帰ったんだけど、こっちの家族の事が忘れられなくてさ。帰ろうと何度も思ったんだけど、政府としては他の星の先住民との交流を禁じてる訳じゃん。だからこんなことになったって事」
「あ、ああ。そこら辺の複雑な事情はなんとなく分ったよ。でも何で俺までここにいる訳」
「いやあ。それは本当に申し訳ないんだどさ。お前さなんか俺の婚約者だと思われてるんだよね」
「はあ?」
「いや、いやいや。だからごめんって」
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