第六夜 凶戦士 (後編)

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 片膝をついてやや斜めに構えられた大弓は弦を青く輝かせ、そこに二本の青く光る矢を乗せる。  ジンの隣に立って、モーリスが力を与える。矢を引き絞る右手にそっと触れる。  ジンの右手を伝い、光の矢に注がれるチカラは、黄色い渦を巻いて螺旋を取り巻く矢じりへと姿を変えた。 「威力は要らない、マーキングアローより細く、速く、正解に、同時にふたりを射る……」  ジンは静かに集中した。  一呼吸して息を止め、右手を放つ。  細く光る矢は空中に線を引きながら飛翔した。  瞬速の矢は黄色く輝く粒を撒き散らし、流星のほうきを形どる。  ジンに背を向けていたエンジュは自分の背中に矢が当たった事を針の痛みにすら感じなかった。細く脆い矢は命中すると同時に砕け散り、エンジュの身体を青と黄色の光で包み込んだ。  光の粒がエンジュの目の前で文字となって視界に割り込み、エンジュは反射的にそれを読んだ。無言ながらにそこに感じた想いは、たった一つの思い出を記憶から連想させ、身体の奥底まで光が届くのを感じた。  内に秘めた想いが増幅される。  この【自由】を決してそれは阻害しない。  灰髪の胸元に閃光が走り、青と黄色の光の粒が大きく舞う。  それはジンの放ったもう一本の矢だ。  レンとの戦いの間隙、一撃も受けるわけにいかない状況で、赤い帽子の大剣に集中していた事が、容易くその矢を命中させてしまった。
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